「サントリー天然水」(以下、天然水)の成長の要因として大きいのが、ブランド価値を守りながらフレーバーウオーターや炭酸水などに横展開したことだ。その価値が明確化した原点が、2013年に実施したリニューアルの“大失敗”にあったという。
1991年の発売以来、ほぼ右肩上がりの成長を続けている天然水ブランド。実は小容量では「ボルヴィック」「クリスタルガイザー」といった海外勢に押されていたうえ、2009年に発売された「い・ろ・は・す」(以下、いろはす)に一気に抜き去られて以降、13年までは“ずっと勝てない2位ブランド”だったという。
そんな中、苦戦している天然水を立て直すというミッションを受けて13年にチームに参加したのが、サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部 戦略企画本部 課長の小南有利子氏。特集第1回「『天然水』でも緑茶? サントリーブランド戦略の鍵は“関係性”」で天然水躍進の立役者として紹介した、同社の沖中直人常務執行役員が04年に伊右衛門をヒットさせてマネジャーに昇進した際に伊右衛門担当となり、“沖中学校”の1期生として薫陶を受けた一人だ。

当時、天然水チームは小容量での1位奪取を狙った戦略の一環として、パッケージのリニューアルに取り組んでいた。前任者から引き継いだ資料では、消費者イメージ調査の結果から「あれだけ自然環境に配慮した活動をしているのに伝わっていない」「若い人たちに自分向けのブランドだと思われていない」という2点を課題として特定。環境をアピールし、かわいいパッケージにして若い人たちに振り向いてもらおうと、13年5月に「天然水の森」に生息する動物のイラストをデザインしたラベルに。「未来へ森を贈ろう。Gift!」をキーメッセージにした黄色の首掛けPOPも付けた。



シェア急落、前代未聞の事態に社内激震
ところが発売した途端、社内に激震が走った。シェアが上がるどころか、急激に下がり始めたのだ。当時指標にしていた一部コンビニでのシェアが約47%から一気に約38%と10%ほど下落(数字はサントリー推計)。「首掛けPOPを付けてシェアが落ちるのは前代未聞だった」(小南氏)。
何が原因なのか。チームはまずコンビニで水を購入した買い物客の出口調査を1週間行った。すると、いつも天然水を選ぶ買い物客が「棚のどこにあるのか分からなかったから、仕方なく他の商品を買った」という。そうなると、やるべきはすぐに首掛けPOPを外し、ラベルのデザインを元に戻すことだろう。しかし、天然水のブランド戦略を統括する沖中氏の指示は単なる“止血”にとどまらなかった。
・HOW(やったこと)が失敗したら、WHY(誰にとっての何なのか)を疑え
・ユーザーの声の“奥”にブランドの本当の価値がある
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