特集最後はメルセデス・ベンツ日本が東京・六本木につくった「EQ House」の事例だ。2019年3月にオープン後、4カ月で3万人が来場する人気となった。車のブランド発信や体験型のショールームといった一般的な拠点とは異なり、売り込むのは「CASE」という中長期の企業戦略。商品よりも企業戦略をどう伝えるかが今後は勝負になると考えた。その姿は次世代の店舗の在り方を象徴しているようだ。

東京・六本木の一角にある「EQ House」はEV(電気自動車)時代の企業戦略を発信する新たな拠点だ
東京・六本木の一角にある「EQ House」はEV(電気自動車)時代の企業戦略を発信する新たな拠点だ

 2019年3月13日、東京・六本木の一角に奇妙な建物が出現した。1200枚の白いパネルで構成し、外観は三角屋根を持った「家」のようなデザイン。それぞれの白いパネルには「ひし形」に切り抜いた部分が複数あり、建物の内部を見通せる。中に入ると、スタッフは常駐するが、販売員ではない。奥の左手にはキッチンやバス・トイレがあり、右手のドアを開けると小部屋もあるなど、住むことができそう。一般の家との大きな違いは、中央部分にメルセデス・ベンツ車が設置されていること。まるで家具のようなイメージで家と車が同居している光景は、今まで見たことがない不思議な感覚になる。

 これはメルセデス・ベンツ日本(MBJ)が、EV(電気自動車)ブランド「EQ」の国内展開を本格化するに当たり、オープンした体験施設「EQ House」だ。竹中工務店と共同開発した。狙いは、MBJの親会社である独ダイムラーが16年に提唱した中長期戦略「CASE」を一般に広め、EQブランドを浸透させることにある。六本木のMBJ店舗の敷地内にあるが、短期的な販売を目指すポップアップストアのような存在ではなく、一般ユーザーとのコミュニケーションを深めるため、約2年間の長期にわたって設置する。

EQ Houseの中に入ると、左手にキッチンなどがあり、車と生活空間が一体化している。両空間をガラススクリーンが隔てる
EQ Houseの中に入ると、左手にキッチンなどがあり、車と生活空間が一体化している。両空間をガラススクリーンが隔てる
1200枚の白いパネルで構成しており、それぞれ「ひし形」に切り抜いた部分がある
1200枚の白いパネルで構成しており、それぞれ「ひし形」に切り抜いた部分がある

 MBJはブランドの情報発信拠点として東京・銀座などに「メルセデス ミー」を置いている。商品を直接販売するのではなく、ブランドや世界観を示す店舗戦略は、多くの企業も採用している。だが、これまでメルセデス・ベンツとして培ってきた車の価値観は、車自体がネットにつながる時代は異なる。車の走りやスタイリングだけでなく、車を中心にしたサービス全体に広がる。そこでMBJは商品のブランディングから一歩進め、中長期の企業戦略であり、今後の価値でもあるCASEをアピールしようとした。

 内部は40人ほどが入れる広さで、毎週のように未来のビューティーやクッキングなどをテーマにしたイベントが開催されている。ユニークな外観も手伝い、どのイベントも盛況だ。当初は何の施設か分からなかった来場者も、メルセデス・ベンツ日本が運営していると聞くと驚くという。白い家のデザインは六本木の街を行き交う人々の目を引く存在となっており、1日平均で200人が訪れるという。

内部は40人ほどが入れる広さ。セミナーは毎回盛況だ
内部は40人ほどが入れる広さ。セミナーは毎回盛況だ