オンラインがオフラインを包含する“アフターデジタル”の時代。デジタル起点でリアル店舗を捉え直したとき、どのような変化が必要になるかを解き明かす本特集。第1回は、「モノを売らない店」へのシフトを決断した丸井グループに焦点を当てる。次の一手となる「デジタル・ネイティブ・ストア」戦略とは?
あらゆるモノがネットで買えるようになり、物販を主軸としたリアル店舗の存在意義が問われて久しい。モノからコトへという消費傾向の一大変化を受け、体験型店舗への脱皮を目指す小売企業は珍しくないが、丸井グループほど大変貌を遂げた企業はないだろう。
この5年、同社は従来の商品を仕入れて売る「百貨店モデル」から、定期借家契約で家賃収入を軸とする「SC(ショッピングセンター)モデル」への一大転換を断行してきた。売り上げだけを前提としないビジネス形態に変わることで、飲食店やサービス系など体験軸のテナントを誘致しやすくするためだ。
その結果、9万6000坪ある丸井グループの全売り場のうち、2014年3月期で12%しかなかった定借面積は、19年3月期で実に76%に到達。業績不振にあえぐ百貨店業界をしり目に、丸井グループの小売りセグメントの営業利益は19年3月期で前期比29%増(114億円)と、大幅に収益が改善している。
こうした店舗の大胆な構造改革にめどをつけた丸井グループが、次のステップとして推進しているのが、「デジタル・ネイティブ・ストア」戦略だ。店舗を持たずにネットで直接消費者に売る新興のD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)企業や、シェアリングブランドなど、ネットで急成長している企業をいち早くテナントとして誘致する。
これらと親和性が高いのは、物心がついた時からスマートフォンに慣れ親しんでいる10~20代。ECネイティブの若い世代の来店が増えれば、丸井グループが展開する「エポス」ブランドのクレジットカードへの入会も促進できるし、その後のECでのカード利用も取り込めるというわけだ。
売らないから「売れる!」
デジタル・ネイティブ・ストアの特徴は、リアル店舗を「顧客とのエンゲージメントの場」と位置付けていること。体験型のショールームに特化してレジすらない店舗もあるほどで、必ずしも物販を目的としていない。あくまで販売の主体はネットにあり、店舗はそれを補完するリアルな接点、体験の場。まさに「売らない店舗」と言える。
しかし、「売らないから売れる」、何とも逆説的な現象が起きているという。
象徴的なのは、丸井グループでは新宿マルイ、渋谷モディ、池袋マルイにリアル店舗を構える、EC発のカスタムオーダーのスーツブランドFABRIC TOKYO(東京・渋谷)だ。同社の店舗には注文可能な生地見本が壁にディスプレイされているが、スーツの完成品の陳列はほとんどない。店舗スタッフは採寸やコンサルティングに特化しており、注文は店頭のタブレット端末などを使って客が自らEC上で行う仕組みだ。
スーツの在庫を持たないため、店舗スペースは丸井が展開する既存のメンズスーツ売り場の半分以下。しかし、「FABRIC TOKYOのリアル店舗経由の売り上げは、既存のスーツ売り場と同等。つまり、坪効率にして2倍の実績を叩きだしている」(丸井の店舗プロデュース部長、山口博行氏)という。
その要因は、成約率の高さにある。何の気なしに立ち寄る既存のスーツ売り場と違って、FABRIC TOKYOの店舗には多くの人がネットで事前予約してから来店する。スタッフを“独占”してカスタムの相談をできるから買い物のワクワク感が高まり、新たな生地の発見にもつながる。また、ネットでは分かりにくい生地の質感を実物で確認できる安心感も手伝って、店舗での体験が購入の最後の一押しになるのだ。
こうした直接話せる、直接触れられるというリアル店舗の価値は、デジタル・ネイティブの企業ほど見直し、重きを置く。実際、アイウエアブランドのWarby Parker(ワービー・パーカー)など、米国で急成長しているD2Cブランドの多くが、その成長過程でリアル店舗を構え、業績を加速させている。FABRIC TOKYOも同じで、同社は19年5月に丸井グループと資本業務提携を結び、今後、丸井の他の店舗にも出店していく構えだ。












