ここ数年、売上高で年率10%以上の伸びを続け、業界3位に浮上してきたコスモス薬品。同社を生んだ九州は、ドラッグストア激戦区の1つだ。一方、コスモスとは正反対の戦略で勝ち残ってきたのがドラッグイレブン。首都圏への進出を始めた両社の戦略から、あらゆる小売りがドラッグストアに席巻される未来が見えてきた。
福岡市に本社を置き、中部以西に約1000店舗を展開するコスモス薬品。2019年5月期決算で売上高6000億円の大台を突破し、マツモトキヨシホールディングスなどを抜き、業界3位に浮上した。7月16日に開かれた決算説明会で横山英昭社長は「20年から、食品を満載した大型の郊外型店で首都圏に進出する」と高らかに宣言。既に埼玉県越谷市や熊谷市に出店用地を取得済みで、早期に30店舗態勢にするという。埼玉の他、千葉や茨城がターゲットで、「マーケットが大きい首都圏をしっかり取っていく」(横山氏)。
食品を満載したドラッグストアとはいったいどのようなものなのか。九州に住む人にコスモスの印象について聞くと、「コスモスは我が家の冷蔵庫代わり」という答えが返ってきた。食品の品ぞろえが充実し、しかも低価格のPB(プライベートブランド)が多く、食品スーパーと比べてもいつでもほぼ最安値で購入できる。生鮮食品の扱いは少ないものの、飲料や酒類、冷凍食品などの安さで客を引き付けている。しかも、特売がないEDLP(Everyday Low Price)戦略をとるため、客も買いだめをする必要がなく、日々必要なものだけ購入すれば事足りる。非常に利便性が高い店舗だ。特集1回目の記事(関連記事「コンビニを侵食 ドラッグストアは‟小売りの王者”になれるか」)で紹介したように、コスモスの売り上げ構成比に占める食品の割合は半分以上。ドラッグストアの進化系として、この“コスモスモデル”は1つの正解といえるだろう。
ただ、気になった点もある。コスモスについて尋ねると、出てくるのは食品の話ばかり。医薬品や化粧品について話を振ってみたところ、若い女性でも「食品以外はほとんど買ったことがない」という答えが返ってきた。地方メガドラッグストアのビジネスモデルは、日用品や食品などの生活必需品の安売りで客を引き付けつつ、利益率の高い医薬品や化粧品へ誘導してしたたかに稼ぐというもの。「来店客に医薬品や化粧品を紹介すべく、接客を強化している」(横山氏)とはいうものの、19年5月期の売上高総利益率(粗利率)は19.7%と、ドラッグストアとしては高いとはいえない。
都心部では小型店舗のトライアルも開始
それでも営業利益率4%を確保できているのは、販管費率が15.7%と極めて低いからだ。そのために、1000~2000平方メートルという大型店舗フォーマットに特化することで、少人数でも運営できる効率的な店舗展開を行ってきた。これがコスモスの最大の強みだが、首都圏攻略においては実は弱みでもある。大都市の中心部でこれだけ大きな店舗用地を確保するのは至難の業だからだ。
コスモスは19年、東京23区内に食品をほとんど扱わない小型店を3店舗オープン(関連記事「アオキ、コスモス…首都圏へ進撃する地方ドラッグストア実踏調査」)。得意とする食品をほぼ“封印”する一方、今まで展開していなかった調剤薬局に挑戦している。小型店は郊外店と比べると運営コストが高くつくが、商圏人口が相対的に多く、売り上げも高め。コスモスのバイイングパワーを活用して、都心でも安値攻勢をかければ勝算はあるとそろばんをはじいているようだ。
横山氏は「小型店舗はあくまでも副業。首都圏でもメインで展開するのは大型店舗だ」としつつも、バリエーションを広げる必要性は否定しない。強みを持つ食品強化型フォーマットで首都圏の郊外を席巻しつつ、必要に応じて小型店舗で都心部を攻める体制を整えつつある。
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