魅力的なネーミングでブランド力を向上させ、売り上げ増を実現する──そんな手法を事例を基に考える特集の第4回。「恋する豚研究所」というメルヘンチックなレストランは、週末ともなると2時間待ちの行列。千葉県内陸部の辺鄙な場所で人気スポットになった背景には、デザインの力があった。
千葉県香取市に「恋する豚研究所」という変わった名前の施設がある。ハムやベーコンなどの豚肉商品を製造する食肉加工場、それらを販売するショップや豚肉料理を提供するレストランが集まる場所だ。駅からは遠く、最寄りの成田空港第2ビル駅から車で約20分。都心からでは車で1時間以上かかる。
決して便利とは言えない立地ながら、県内外から多くの人が訪れる人気スポットだ。平日で200~300人、週末ともなると500~600人の来場者があり、レストランは2時間待ちになることも珍しくない。
恋する豚研究所はこの施設を運営する企業の名前でもあり、商品ブランドでもある。「豚が恋をすると幸せを感じ、健やかでおいしく育つだろう」というイメージから名付けられた。「何かを食べることと楽しさや幸せが結びつくような名前は何だろうと考えたときに、自然に浮かんできたもので、いろんな候補を考えたりどうしようかと悩んだ覚えはあまりない」と飯田大輔代表は言う。
実際に豚が恋をしているかどうかはともかく、豚の育て方には大きな特徴がある。生産しているのは香取郡東庄町にあるアリタホックサイエンスの在田農場。養豚では、業者から購入した飼料を豚に食べさせて育てるのが一般的だが、在田農場では自社の飼料工場で作った飼料を豚に与えている。パン工場から出るパンの耳など、捨てられてしまう食品由来の原料を発酵させ、生きた菌が作るえさだ。これにより、豚本来の免疫力が高まり、健康に育質も良くなるという。
「他のブランド豚に比べても旨味成分のグルタミン酸やイノシン酸の含有量が多いなど、おいしさを科学的にも証明できる」(飯田氏)。在田農場では40年以上にわたって、どういう飼育環境にすれば、健康で良い豚が育つのかを追求してきた。恋する豚研究所は、もともと地元にあった優れた素材をリブランディングした成功例ということもできる。
福祉を表に出さず高いレベルを提供
会社としての恋する豚研究所も、一連の施設も、母体は「福祉楽団」という社会福祉法人だ。千葉県内で特別養護老人ホームやデイサービスセンターなどを運営している。飯田氏はこの法人の理事長も兼務している。そして、恋する豚研究所も表立って掲げてはいないものの就労支援施設であり、働いている人の半数に当たる39人は障害や働きづらさを抱えた人だという。
福祉楽団の設立は2001年。もともとは飯田氏の母親が設立準備を進めていたなか、突然の病で亡くなった。遺族はその遺志を継ぐことを決めたものの、飯田氏は当時まだ大学生。そこで初代理事長に就任したのが母の兄、つまり飯田氏の伯父であり、アリタホックサイエンスの先代社長でもある在田正則氏だった。
福祉の現場に携わるうちに飯田氏は一つの大きな課題を感じるようになった。障害のある人の賃金があまりに安すぎるのではないかという思いだった。「福祉作業所」と呼ばれる施設で働く障害者の平均月給は月に1万円ほど。これでは自立には程遠い。彼らに10万円の月給を支払える仕事をつくりたいというのが飯田氏の思いだった。
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