風が吹けば桶(おけ)屋が儲(もう)かる、というように、天気が消費に影響を与えることは知られてきた。これまで担当者の勘頼りだった気象と売れ行きの関係を、データで解き明かす取り組みが進んでいる。日本気象協会は、廃棄ロスを2割減らす解析技術を生かし、小売り向け予測サービスを開始した。
今週末の気温は28度。梅雨で蒸し暑そうだ。明日から「売りドキ」なのは、カットフルーツとパイナップル、それにアメリカンチェリーがいけそうだ。その他はうどんやそばが期待できるな。でも日曜日は雨が強くなるから、売り上げが落ちそう。金曜日と土曜日で、売り切ってしまおう――。マネジャーはタブレットから目を離すと、仕入れ状況を確認するように指示を出した。
スーパーマーケットなどの小売店で、そんな利用シーンを想定する売れ行き予測サービスが日本気象協会の「売りドキ! 予報」だ。生鮮や総菜などの商材には、鮮度の高さが求められ、賞味期限もある。それだけに「今日在庫がどれだけあり、明日の朝には何個仕入れるかという指標が必要となる」(日本気象協会 防災ソリューション事業部先進事業課 商品需要予測プロジェクトサービスプランナーの齋藤佳奈子氏)。
青果、精肉、鮮魚、総菜、日用品など各商品の需要予測を7段階で表示する。店舗はこれらの指標を参考にすることで、機会損失や、売れ残りによる廃棄ロスを抑止できる。利用料は、商品を120カテゴリーに分類したライトプランが1店舗につき月額5万円、さらに550カテゴリーに細分化したスタンダードプランが月額7万円。2019年4月から提供を開始した。
異常気象でリスクへの意識高まる
天気データのビジネス活用が拡大の兆しを見せている。その理由の1つは、異常気象の増加だ。温暖化などの影響で大雨や台風など気象災害が増え、あらゆる業界で「気象リスクがより身近に感じられるようになってきた」(齋藤氏)。ビジネス上でも天気の変化を事前に察知して、あらゆる事態に対応できる柔軟さが求められている。
2つ目は、技術の向上で予報の精度が高まっていること。「過去15年で予報の精度が30%高まった」(齋藤氏)という調査結果もある。単に過去実績だけを考慮する従来の需要予想とは異なり「未来の予測ができる唯一の指標として認知が広がっている」と齋藤氏は分析する。
コンピューターの処理能力が高まっていることも理由の1つ。10年前は1つのカテゴリーの製品についてPOSと気象の関連性を分析するために数カ月かかっていたが、「現在は200カテゴリーの製品を1週間程度で処理できるようになった」(齋藤氏)。
行政も気象データのビジネス活用を後押ししている。気象庁は17年3月に気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)を立ち上げた。15年の総務省の通信白書によると、産業界で顧客データを活用しているという企業の比率は45%以上だったのに対し、「気象データは1.3%だけと低かった」(気象庁総務部情報利用推進課気象ビジネス支援企画室の海老田綾貴氏)。これがコンソーシアム設立の1つの契機となった。国土交通省が取り組む「生産性革命」を推進し、産学官連携で気象ビジネスを拡大するため、コンソーシアムでは定期的にセミナーやイベントを開催している。製造、小売り、金融や保険など630社以上の会員を集めている。
シーズンオフの在庫を2割削減
精度はどうなのか。日本気象協会は15年にミツカンと「冷やし中華のつゆ」について、売れ行きを予想する実証実験を実施している。当然、夏の暑い時期にのみ需要が集中する商品で、オフシーズンに売れ残れば廃棄につながる。日本気象協会の気象データに基づく予測値を、実際の販売データと照らし合わせてみると、前年の売れ行きベースで算出した従来方式の需要予測と比べて、最終在庫を2割削減できるという結果になったという。
高い精度を出すために、日本気象協会ではAI(人工知能)を活用している。人間の感覚は単純に気温の高低だけでは測れない。例えば、気温が25度だったときに「暑い」と感じる人の数は、秋口よりも初夏のほうが多い、という傾向がある。そこで日本気象協会は、SNSのTwitterのつぶやきを分析して「暑い」「寒い」といったキーワードの投稿と、気温データの関連性をAIに学習させ「体感指数」としてモデル化した。
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