特集の第3回、第4回は位置データの新しい活用法を紹介する。まずは携帯電話の位置データを使った地域マーケティング支援を手掛けるドコモ・インサイトマーケティング(東京・港)。スタートアップと連携し、過去との比較や現状の分析のみならず、予測にまで踏み込むなど用途の拡大を目指す。
ドコモ・インサイトマーケティングが展開する「モバイル空間統計」は、国内約7800万台(2019年3月時点)、訪日外国人約900万台(18年実績)の携帯電話が基地局に接続するデータを使い、人口分布を捉える分析サービス。500メートルメッシュ(四方)や市町村など地域ごとの人口分布を参照できる。携帯電話の利用者情報を生かし、性別や年齢層ごと、観光地にどこの居住地から集まっているかといった分析もできる。
競合には、スマホに入れたアプリを経由してGPSによる位置情報を集約するサービスもある。モバイル空間統計では携帯電話やスマホの基地局と通信をする仕組みそのものを使っているため、「アプリを立ち上げているかにかかわらず、24時間365日いつでも情報を取得できる。サンプルサイズも大きい」(ドコモ・インサイトマーケティング エリアマーケティング部長の矢野達也氏)という特徴がある。
ダイナミックプライシングへの応用も
高速道路の整備や新幹線の開業で人の流動性はどう変わったか、コンサートやスポーツイベントで参加者の属性はどう推移したか、プレミアムフライデーで街中の人は増えたのか――。モバイル空間統計のデータは、さまざまな用途で使われてきた。その多くは、ある環境が変化した前後で、人の流れがどう変化するかを測るための調査だった。
今後力を入れていくのは売り上げ増に直結する「予測」につなげるデータの提供だ。「ダイナミックプライシングに活用するなど、多彩な手段がある。ドコモの中でも進めるかもしれないし、他社と組むかもしれない」(矢野氏)と広がりに期待をかける。
小売店やホテルの利用者推移を予測
その足掛かりとして、野村証券出身のアナリストが立ち上げたスタートアップaiQ(東京・千代田)と連携する。
同社CEOの山本裕樹氏は、社会人ドクターとして、東京大学特任准教授の松尾豊氏の下で学び、日銀や政府の資料から景況感を読み説く「野村AI景況感指数」の開発を手掛けた。その後、野村証券内部のビジネスコンテストを通し、18年12月に社外事業として独立する。野村ホールディングスのほか、19年3月には未来創生ファンド、NTTドコモ・ベンチャーズ、松尾氏の関係者が立ち上げたベンチャーキャピタルDeep30からも出資を受けた。
aiQが開発したのは、モバイル位置情報を使った企業の売り上げ推移を予測する投資情報サービス「aiQ Geolocation」だ。例えば、テーマパーク。モバイル空間統計のデータを使い、そのテーマパークの人口を分析すれば、ある一定期間の来場者数が予測できる。aiQの予測による東京ディズニーリゾートの来場者数と、実際公表された来場者数を過去4年分で比べると、相関係数は0.871。この数値は0.7以上で強い相関があるといわれている。
人口のデータは1時間おきに更新されるため、「新しいアトラクションやイベント、チケットの価格変更などの影響で来場者がどのように増減しているかが、明確に分かる」(山本氏)。これらの傾向を分析することで売り上げの予測を立て、投資家に提供する。
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