インテージが戦略転換を図る。同社の屋台骨「全国小売店パネル調査」を15年ぶりに刷新しECデータを追加することが本誌取材で明らかに。パネルのサンプルデータに初めて全数データも組み合わせ精度向上と顧客アクション支援に舵を切る。またテレビ個人視聴データとの併用でCMと購買の関係を提示する。

 読者にマーケティング関連の方が多いので、その存在はよく知られたところではなかろうか。困ったときのインテージ。商品別の売り上げからテレビ視聴まで幅広くマーケティングデータを提供する。

 同社が今、大きな戦略転換を図っている。今年4月の5年半ぶりの社長交代を指しているわけではない。新社長の檜垣歩氏は言う。「社長が変わったことなんて些細(ささい)なことよ。ウチは伝統的に現場が事業を動かすの」。謙遜か、真実か。それは明日掲載の特集第2回の独占インタビューからご判断いただきたい。

 戦略転換の背景には、インテージを取り巻く環境の激変がある。

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サンプリングデータでリサーチ業務が「従来のインテージ」。ビッグデータを取り込んでプランニング/アクション支援まで踏み込むのが「今後のインテージ」

 「この商品、実際の売り上げは先月比で伸びているのに、インテージさんのSRIからはそれが実感できない」。顧客のメーカーからの指摘はインテージにとって耳が痛い。SRIはインテージが提供する「全国小売店パネル調査」のこと。スーパーやコンビニエンスストアなど全国3994店舗からのPOSデータを集計し、これをサンプルデータとして、国内およそ10万店舗のリアル店舗の売り上げデータとして推計する。このサンプルからの推計がインテージ強さの秘密である。

 顧客が言うズレが生じるのも無理はない。いまや消費者の行動はリアルからデジタル(EC)へと徐々にシフトしている。顧客のメーカーの売り上げ数字はリアル+EC。SRIはリアルだけの売り上げだ。もちろん、メーカーサイドもSRIにECが含まれないことくらい知っている。それにしても、という微妙な空気が顧客とインテージを覆っていた。

 そこで2020年1月、「SRI+(エスアールアイ・プラス)」を立ち上げ、ECパネルを新設することが本誌取材で分かった。SRI、15年ぶりの大幅刷新である。ECサイドの売り上げデータは国内ではアドウェイズ傘下のNint(東京・新宿)などが提供するくらい。それだけに消費財メーカーなどにとっては貴重なデータといえる。

 紙おむつ、ペットフード、医薬品、ヘアケア、洗剤などまずは限定された商品が対象で、順次広げていく考えだ。売り上げデータの入手先は大手の通販、EC会社のようだが、「それ以上聞くなら、取材はキャンセルだ」と言わしめるほど、どこからデータを得るのかは秘中の秘である。

サンプルデータと全数データは水と油?

 また、全数(実数)データも「SRI+」に取り込む。これにより売り上げデータの精度をさらに高め、「顧客の次なる打ち手を具体的に提案できるようにする」とパネルリサーチ事業本部副本部長の溝口隆之氏。

 ちょっと複雑なので説明していこう。社会調査研究所というかつての社名から分かるように、リサーチ業務を本業としてきた。リサーチの鉄則はヒアリング対象には営業をかけないこと。次回から本音で回答してくれなくなるからだ。

 これが、同じ小売り店でもPOSデータの提供元となってくれば、リサーチの呪縛から逃れられる。むしろ、「このエリアはあの商品がよく売れるから、それを充実させたらいかがですか」と具体的な打ち手、アクションを提案できるようになる。そんなデータ提供元を増やせば、実数データに近づいていく。

 問題は、インテージ最大のウリだった、サンプルデータを取得するパネルの精巧なバランスが崩れかねないことだった。完成された積み木細工の一部を金属加工品へ差し替えてみるようなものだろうか。

 ただ、その置き換えは可能と判断した。パネルデータと実数データの混在は、新たな価値を生む。消費財メーカーが持つ自社データをSRI+と組み合わせれば、より精緻な競合比較などが可能になるからだ。