※日経トレンディ 2019年6月号の記事を再構成

平成の最後にようやくブーム本格化の兆しを見せ始めた「eスポーツ」。令和でそのブーム拡大を加速させるため、異色のアプローチですでに成功へ第一歩を踏み出した人がいる。カプコン社長の辻本春弘氏だ。

カプコン社長
辻本春弘

1964年、大阪府生まれ。大学在学中よりアルバイトとしてカプコンで働き始め、1987年、大学卒業と同時にカプコンに入社。コンシューマ用ゲームソフト事業の組織改革や、海外事業の拡大、事業全体の統括などに携わる。専務、副社長などを経て、2007年7月から現職

『ファン離れ覚悟で、素人同然の選手を抜てき
成長する姿が感動を呼ぶのは、スポーツの醍醐味』

 2019年2月から、同社がチーム戦では初めて主催する大型のeスポーツリーグであるカプコン「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」を約2カ月にわたって開催。19年3月に行われた決勝に当たるグランドファイナルは、ネット配信だけでなく東京・秋葉原でライブイベント、仙台でのNTT局舎を活用した同イベントのパブリックビューイングも行い、多数のファンを集める成功を収めた。

 同社は、米国ではすでに6年前からeスポーツ大会「CAPCOM CUP」を開催していた。ただ、辻本氏は「トップランカーが定着していて、大会方式を見直す時期」と感じていた。そこで、日本でeスポーツ大会を開催するに当たって、自らが指揮をとって改革に乗り出した。

 その象徴が、米国では1対1の個人戦だった大会方式を、3対3の団体戦にしたことだ。しかも、3人のうちプロ級の選手は1人だけで、あとは若手選手と、「ストリートファイターV」を全くプレーしたことが無い選手に。「ファンはトッププレーヤーのハイレベルなプレーに酔いしれたいもの」という常識を覆す異色のアプローチを取った。

 実際、開催当初は「素人(ビギナークラス)のプレーなんて見たくない」という批判も受けた。それでも辻本氏は、「今は選択を間違えてもいい。そこから経験を得て、地道な取り組みで一歩ずつ歩みを進めることが重要だ」と社員に説いた。

 ファンが離れるリスクを承知で、間口を広げることにこだわった根底には、eスポーツ事業に対する辻本氏の強い信念がある。「年齢、性別に関係なく対等に戦えるeスポーツは、スポーツの醍醐味である『誰でも参加できる』という点で、将来のスポーツとして非常に可能性がある。eスポーツを広く浸透させることは我々のミッションだ」。

 結果的に、これが大成功。素人同然だったアマチュア選手が上達していく姿が感動を呼び、Abema TVなどを通じたネット配信の視聴者数は好調に推移。ファン数百人が集まったグランドファイナルでも、苦戦するアマチュア選手への声援で会場は一体感に包まれた。辻本氏は、「スポーツは選手が成長する姿を見て感情移入していくもの。eスポーツでもそれは変わらないと感じた」と振り返る。

「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」で使われる、往年の名ゲーム「ストリートファイター」は、ルールが明快で誰でも熱中できる。こうしたゲームが、eスポーツには最適 「ストリートファイターV アーケートエディション」@CAPCOM U.S.A., INC.2016,2018 ALL RIGHTS RESERVED.
「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」で使われる、往年の名ゲーム「ストリートファイター」は、ルールが明快で誰でも熱中できる。こうしたゲームが、eスポーツには最適 「ストリートファイターV アーケートエディション」@CAPCOM U.S.A., INC.2016,2018 ALL RIGHTS RESERVED.
カプコンが「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」の前から取り組んでいる世界的なeスポーツの大会、「CAPCOM Pro Tour ジャパンプレミア」の会場風景。こちらでは飛び抜けた実力者たちが戦う ©CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
カプコンが「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」の前から取り組んでいる世界的なeスポーツの大会、「CAPCOM Pro Tour ジャパンプレミア」の会場風景。こちらでは飛び抜けた実力者たちが戦う ©CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2018 ALL RIGHTS RESERVED.

地域に根付くチームでリーグ戦を

 辻本氏が次なる構想に掲げるのは、全国各地に本拠地を置くチーム同士が争うリーグ戦の実現だ。「全国に浸透させるには、各地で試合を開催したり、プロ選手と触れ合える場を作ったりすることが必要。地域貢献もeスポーツに取り組む重要な意義。Jリーグやプロ野球のように地方の人を巻き込んで、応援してもらいながらeスポーツを定着させたい」と熱弁する。

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