※日経トレンディ 2019年6月号の記事を再構成
ヒットの陰にこの人あり、と言われるのが柴田陽子氏だ。ブランドプロデューサーとして、世の中をリードする数々のトレンドを生み出してきた。「期待に応えるのは責任」と柴田氏は言う。自分なりの物差しを持ち、ストイックに仕事と向き合う姿勢は、激動の時代を生き抜く示唆に満ちている。
柴田陽子
神奈川県生まれ。外食企業や化粧品会社を経て、2004年柴田陽子事務所を設立。渋谷ヒカリエのレストランフロア、ローソン「Uchi Café SWEETS」、ミラノ国際博覧会日本館のレストラン、グランツリー武蔵小杉、ログロード代官山などのプロデュースに携わり、13年秋にはアパレルブランド「BORDERS at BALCONY」を立ち上げた。コーポレートブランディング、店舗プロデュース、商品開発など多岐にわたるコンサルティングを担う
『時代を捉えているか、未来が思い描けるか。
考えに考え続けることで、道は開ける』
平成最後の年明け、東京・丸の内に、皇居を一望する「社交の殿堂」が復活した。東京會舘の新本舘である。歴史の重みを感じるファサード、壮観な螺旋階段。見上げれば、東洋一とうたわれた大シャンデリアが輝きを放ち、ここでしか味わえない美食の数々が出迎える。新しくも懐かしい。「NEW CLASSICS.」という言葉を紡ぎ、世界に二つとない空間をブランディングしたのが、柴田陽子氏だ。
平成から令和へ、新たな時を刻み始めた東京會舘の門出を祝い、柴田氏は立ち止まることなく、次の仕事へと向かった。ブランドプロデューサーの道に進み、はや16年。常時20~30件の案件を抱え、分刻みのスケジュールをこなす。
渋谷ヒカリエのレストランフロア、ローソン「Uchi Café SWEETS」、グランツリー武蔵小杉、パレスホテル東京の料飲施設、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)日本館のレストラン。数えきれないほどのプロジェクトを任され、「1点の妥協もない仕事をする」ことで、期待を上回る実績を積み上げていった。
マーケットの声をつかむ
なぜ、長年にわたって成果を上げ続けられるのか。それは、誰よりも時代を捉える力に秀でているからだ。「昔はどうだったか、これからどうなるのかと、想像する癖が備わっている」のだという。
狙い通りにはまったのが、2012年に開業した渋谷ヒカリエのレストランフロア。「食が商業施設の顔をつくる」という、今につながるトレンドをも生んだ。ワンフロアにするか、ツーフロアにするか。どれだけ市場調査しても、飲食店は供給過多という結果しか出ない中、柴田氏はあえてツーフロアにすることを推した。空間を重層的に使うことで、フロアごとに違う表情を見せようと考えたのだ。
6階が“食べる”を楽しむ上質な美食のフロア、7階が“時間”を楽しむ個性派グルメのフロア。若者の街というイメージが強い渋谷にあって、30〜40代の大人に響く食の場をつくるコンセプトが時代を捉え、人の流れを変えてみせた。
心掛けているのは「マーケットの声をつかむこと」。仕事の依頼を受けたら、競合店すべてに足を運び、体感してみる。ターゲット世代に直接話を聞き、時には、じっくりと人の動きを観察する。「24時間、何かを考えていない時間はない。あらゆる業界に自らのクライアント(顧客)がいて、生活のすべてにクライアントがひも付いている」と思っているからだ。
期待に応えるのは「責任」
柴田氏には、仕事をするうえで大切にしている物差しが4つある。「経営者に志はあるか。その業態は時代を捉えているか。手掛けようとしている商品、サービスは本物か。そして何より、私自身に自分なりの解決策が見えるかどうか」。
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