※日経トレンディ 2019年6月号の記事を再構成
寿司のデータを転送し、離れた場所の3Dプリンターで印刷──。荒唐無稽に思える、こんな構想をいくつも掲げるプロジェクトが「OPEN MEALS(オープンミールズ)」。立ち上げたのはITや食の専門家ではなく、電通の広告クリエーター・榊良祐氏だ。プロジェクト推進には「ビジュアライズ(可視化)」が大きな役割を果たしていた。
榊 良祐
2004年に電通に入社し、アートディレクターやデザインストラテジストとして活動。これまでに「東京防災」クリエーティブディレクション、「JAPAN LEATHER」ブランディング、「民放公式テレビポータル『TVer』」アートディレクションなどを務める。15年にOPEN MEALSプロジェクトを立ち上げた
『ビジョンを精密に描けば、人や技術が自然に集まる
企業を横断したものづくりのモデルケースにもしたい』
「おでんのデータ化」「3Dフードプリンター」「寿司の転送」──。そんな、食の未来に関する奇想天外な構想をいくつも掲げるプロジェクト「OPEN MEALS(オープンミールズ)」が話題を呼んでいる。2019年3月には、世界最大級のイノベーションの祭典「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」で、レストラン「SUSHI SINGULARITY」をオープンすると発表し、世界中から注目を浴びた。20年には、個人の健康状態に合わせた、キューブ状の寿司を3Dフードプリンターなどで作ることを目指している。
このオープンミールズを立ち上げたのは、食の専門家や技術者、起業家などではなく、電通の広告クリエーターである榊良祐氏だ。なぜ、このようなユニークなプロジェクトが広告会社から生まれたのだろうか。
そのきっかけは、15年に電通社内で開催された新事業コンペに遡る。そこで榊氏は、「食べ物の味を甘味、酸味、塩味、苦味などの基本味に分解してデータ化すれば、離れた場所にいる人にも味わってもらえる」というコンセプトを提案。このアイデアが入選し、「食のデータ化」プロジェクトとしてオープンミールズが始まった。
榊氏はまず、市販のフードプリンターを購入し、食べられる紙に「味」を印刷する実験を行う。フードプリンターの原料タンクにさまざまな調味料を入れて「出力」したところ、「めちゃくちゃまずかったが、味をデータ化して再現することはできそうと感じた」。しかし榊氏は食の専門家ではない。そこで、味覚や3Dプリンターを研究する専門家や企業を訪ね歩き、協力を依頼するという活動からスタート。少しずつ賛同者を増やしていった。
世界中から注目された「寿司の転送」というビジョン
オープンミールズの活動を通して、アートディレクターの特技である「ビジュアライズ(可視化)」が、プロジェクトの推進に役立つことを榊氏は肌で感じる。「まだ世に出ていないものを言葉で説明してもなかなか理解してもらえない。でも、圧倒的な未来のビジョンを正確にビジュアライズすれば、そこに『こんな未来になったらいい』『それは僕も乗りたい』と、賛同する企業や技術者が寄ってきてくれることが分かった」。
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