※日経トレンディ 2019年6月号の記事を再構成

あらゆる人がAI(人工知能)を使いこなし、使っていることさえ意識しなくなる──。本連載の3人目は、そんな社会を目指すギリア社長の清水亮氏。かつて情報処理推進機構から「天才プログラマー」と認定された同氏は、AIは技術に目がいきがちだが、今は活用のアイデアが重要だと説く。AIが当たり前となった先の変化とは。

ギリア社長
清水 亮

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、2017年にソニーコンピュータサイエンス研究所、WiLと共にギリアを設立、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱をささげる。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。主な著書に『よくわかる人工知能』(KADOKAWA)、『プログラミングバカ一代』(共著、晶文社)、『教養としてのプログラミング講座』(中央公論新社)など

『今のAIの状況は昔のインターネットに似ている
知的作業や思考とは何かの追求が進めば
将来「AIを使っている」という意識は無くなる』

 2016年3月、英国DeepMindの囲碁ソフト「AlphaGo」がトッププロ棋士を破り、AI(人工知能)が人間を超えつつあることを多くの人が肌で感じた。その翌年、かつて「天才プログラマー」に認定された清水亮氏が、ソニーコンピュータサイエンス研究所やWiLと共に、AI関連の新会社ギリアを立ち上げた。ギリアの目的は「ヒトとAIの共生環境の実現」。潤沢な資金のある一部の企業だけでなく、あらゆる人々がAIを自分の能力の一部として使いこなせる社会を目指して設立された。

 ギリアは18年12月に、その“途中経過”として、AIの専門家でなくてもマウス操作だけでディープラーニング(深層学習)を用いたAIの開発や訓練、検証ができるソフトウエア「Deep Analyzer Lite」の販売を開始した。

 実はこのソフトは、清水氏が「同じようなプログラムをいちいち書くのは面倒」と感じたことがきっかけでできたもの。これを、18年末から19年にかけて、「専門家ではあるが、コンピューターは苦手」という人が次々に利用し始めた。

 その一例が、森林破壊の程度を調べる研究。これまでこの分野では、人が航空写真を見て、森林が何パーセント残っているかを主観で判断していた。しかし、森の色や密集具合を目視してパーセンテージを判定するため、見る人によってばらつきがあった。これをディープラーニングを用いたAIに判定させることで、統一された基準で森林の量を数値化できる。「人間にしかできなかったから諦めていた『定量化』が、AIによってできるようになった例」(清水氏)だ。

 この他、「広い牧場で、ドローンの写真から牛ふんを見つけて取り除く」「救急医療でCT写真から異変の有無を探す」「麦の病気を発見する」「橋脚にできた亀裂を発見する」「メンテナンスが必要な電信柱を、車で走行中に見つける」といった具合に、農業、土木、建設、医療など様々な分野でAIが使われるようになった。「このソフトのワークショップをちょっとやっただけで、論文を書けるようなネタがぽんぽん出てきたこともあった。今まで全く使われていなかった分野にも、少しずつAIが入っていけている実感がある。これを僕らはBtoP(Business to Professional)と呼んでいる。『アイデアはあるがお金は無い』という人も、数十万円の予算があれば高精度なディープラーニングを家で試すことが可能な時代になった。AIというと技術に目がいくが、今はAI活用のアイデアをきちんと持つことが重要だ」。

専門家でなくてもディープラーニングによるAIが使える「Deep Analyzer Lite」の画面。画像認識や物体検出など、目的に応じてモデルを選んで使う
専門家でなくてもディープラーニングによるAIが使える「Deep Analyzer Lite」の画面。画像認識や物体検出など、目的に応じてモデルを選んで使う
深層学習用のパソコンなどとセットで販売
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