※日経トレンディ 2019年6月号の記事を再構成
「令和のヒットをつくる人」の2人目は岩佐琢磨氏。パナソニックから独立し、斬新なプロダクトを次々と生み出したスタートアップの旗手は2018年、仲間を引き連れ、古巣に戻る選択をした。単に出戻ったわけではない。胸中に秘めた大いなる野望と、ゼロからイチを形にしていく思考回路に迫った。
岩佐琢磨
1978年生まれ。立命館大学大学院理工学研究科修了。2003年パナソニック入社。08年にCerevoを立ち上げ、20種を超えるIoT製品を70カ国・地域に届けた。18年4月、Shiftallを設立し現職。クラフトビールの自動補充サービス「DrinkShift」を年内に開始予定
『1発目を軽く、早く当てにいく
大きなビジョンを描くことで
ポテンヒットがメガヒットになる』
神田川のほとり、古くから問屋街として名をはせる東京・浅草橋駅の近くに、令和の日本を引っ張るスタートアップが産声を上げた。配管むき出しの天井に、工具がずらりとつり下がった白い壁面。会議室の机や棚から、空間のレイアウト、名札をひっくり返すだけで出退勤時間を管理できるシステムに至るまで、オフィス内のハードとソフトを丸ごと自社で作り上げたという生粋のものづくり集団、Shiftall(シフトール)だ。
率いるのは、岩佐琢磨氏。パナソニックを退社し、2008年にCerevo(セレボ)を創業。ネットとつながる斬新な製品を次々と放ち、世に鮮烈な驚きをもたらした希代のアイデアマンである。
100%子会社として再出発
18年4月2日、IT業界を1本のニュースが駆け巡った。岩佐氏がセレボを退社し、シフトールという新会社を立ち上げ、CEO(最高経営責任者)に座る。それだけではない。シフトールの全株式をパナソニックに売却し、セレボから岩佐氏を含めて26人の社員が移動するという内容だった。築き上げたキャリアを捨て、パナソニックの100%子会社として再出発する。一部では「出戻り」を選んだとも報じられたが、岩佐氏には、明確なビジョンがあった。
「パナソニックを変えるのが、僕らの大きなミッションの一つ。歴史があり、日本を象徴する大企業が変わるきっかけになれるのなら、面白い。じゃあ、ちょっと手伝いましょうか、となった」。
岩佐氏を迎え入れたのは、パナソニックの宮部義幸CTO(最高技術責任者)。技術部門のトップが期待したのは、スピード力。あらゆるものがネットにつながる変革の時代、これまで培ったノウハウを注ぎ込み、パナソニックでは生み出せない製品を世に出してほしい。組織に新風を吹き込むエンジンとしての役割を、旧知の間柄だった岩佐氏に託した。
一方の岩佐氏も「トップが本気で変わろうと思っているのなら」と一肌脱いだ。チームを引き連れ、スタートアップごと、大企業の懐に飛び込む決断を下したのだ。
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