構造的に強靱な企業に投資せよ

奥野 先ほどから「構造」という言葉を使われていますが、私にとっても重要なキーワードです。森岡さんが著書『確率思考の戦略論』で示された、構造と確率で市場を戦略的に捉える考え方は、我々の投資スタイルにとても似ています。私たちが投資する企業って、構造的に強いから、必ず結果が数字になって表れる。別に四半期の業績や、1年後の成果を当てるゲームに参加しようというわけじゃない。現在の市場規模とシェアを見極めれば、例えば10年後の中国のGDPの成長に伴って、売り上げがどう変化するかは予測できるわけです。だから私たちは投資している企業に対して、「1年後にどうなりますか」と聞くことはありません。自分たちの仮説の通りに企業が成長しているかを、決算のたびに検証していく。そういう意味では、日々、科学に近い作業をしています。

注)19年3月時点。組入銘柄総数:26銘柄
注)19年3月時点。組入銘柄総数:26銘柄
奥野氏(左)は米国に頻繁に出張。投資先を見極めるため、該当社以外の競合他社をはじめ、事業の川上や川下の産業まで徹底分析する
奥野氏(左)は米国に頻繁に出張。投資先を見極めるため、該当社以外の競合他社をはじめ、事業の川上や川下の産業まで徹底分析する
企業との対話を重視。市場構造などを丹念に分析した資料を奥野氏が訪問時に持参。相手先に仮説をぶつけて“強さ”を検証するスタイルを貫く
企業との対話を重視。市場構造などを丹念に分析した資料を奥野氏が訪問時に持参。相手先に仮説をぶつけて“強さ”を検証するスタイルを貫く

森岡 市場や業界の変化を長期的に見通して投資をするから、短期的な事象で一喜一憂することは無いのですね。

奥野 そうです。する必要が無いのです。いい会社は、市場経済の発達とともに成長していく構造を持っています。例えば、コカ・コーラという会社があります。我々は投資していませんが、世界的に見ると、この会社の規模で炭酸飲料を生産販売しているメーカーは、皆無でしょう。これから炭酸飲料を作って売ろうともくろんでも、初めからコカ・コーラにかなうわけがない。市場シェアが大きいメーカーほど、製品を安く作れるわけですから。つまり参入障壁が高いということです。我々が投資する銘柄を決めるときに最も重視するポイントです。というのは、90年代半ばには55億人だった人口が、今は70億人にも増えています。当然、コカ・コーラを飲む人が増えますよね。だから、この会社の営業利益率が常に20%あるのです。今後、世界の人口は90億人にまで増えると推計されていますから、コカ・コーラの株価はずっと上がり続けるという仮説が成り立ちます。

森岡 マーケティング的に見ても、コカ・コーラはとても強い会社です。もともとシェアが大きいうえに、圧倒的な量の広告宣伝を投下して、消費者の頭の中で自社商品が選ばれる確率を高めています。それにディストリビューションですね。世界中のどこに行っても買えるくらい、流通を押さえている。これに対抗して新たなブランドの商品でシェアを取りにいくのは、10倍の敵を破るくらいの知恵を持った軍師でも至難の業でしょう。コンペティターが生まれにくいから、シェアがさらに大きくなる可能性も高いわけです。

奥野 私たちが投資する会社も同様で、絶対に潰れないんです。その会社が無いと世の中が成り立たないくらいに影響力があるから、株価平均が下がる状況でも、むしろ逆行高になります。危機的な事態に強いのです。例えば、信越化学工業グループは、電子機器のメモリーなどに使われる高度なシリコンウエハーの最大手で、世界で利用されている総量の3分の1くらいを作っています。生産拠点が東日本大震災の被害を受けて操業を停止したときは、世界のシリコンウエハーの価格が上がったほどです。そういう企業ですから、被災後も、様々なバックアップを受け、すぐさま工場が再稼働しました。

森岡 私がマーケティングを軸に据えて育てようとしているのも、まさにそういう企業です。永遠不滅とまでは言いませんが、持続可能な構造を持って、安定的に成長していく企業こそが、日本を変えていく力がある。奥野さんは、そうした銘柄でポートフォリオを組んで、長期投資を促してきた。それは利益を追求するだけでなく、ある種の哲学が無いとできないことでしょう。

奥野 確かに哲学に近いかもしれません。私が長期投資を始めて、足掛け13年になりますが、最初から構造的に強靱な企業にこだわっていました。

森岡 それはどのような企業でしょうか。条件を教えていただけますか?

奥野 3つの要素があります。1つ目は「付加価値」がちゃんとあるということ。モノでもサービスでもいいんですが、それが本当に必要なのか? という話です。2つ目が「競争優位」。先ほど参入障壁を重視すると申しましたが、要は「この会社と戦っても勝ち目が無い」と思わせるほどの圧倒的な強さです。3つ目が「長期的な潮流」。今、証券業界で流行している、自動運転、AIといった話ではないです。私が見定める長期潮流というのは、人口動態など不可逆的な変化を示すものです。

森岡 重要なのは、やはり需要サイドですね。マーケットの構造を決めているのは、究極的には消費者。製造業であろうと金融業であろうと、消費者の心に訴えるアイデアがあって、それを実現する技術を生むことが大切です。BtoB型のビジネスでも、顧客となる企業の先には、消費者がいます。

(後編につづく。2019年6月13日公開予定)

(写真/大髙和康)