※日経トレンディ 2019年7月号の記事を再構成
Jリーグの隆盛を陰で支える、各クラブを横断した取り組みがある。「デジタル戦略」「映像コンテンツ」「アジア展開」──。3人のキーマンに、最新動向を聞いた。
【デジタル戦略】 顧客データを一元管理 クラブの施策を後押し
各クラブ横断の取り組みの一つが、顧客データを一元管理する仕組みを構築したデジタル戦略だ。
従来は、プロ野球などと同じく、各クラブが独自で顧客データを管理していた。だが、多くのクラブは人手や資金をデジタルマーケティングに割けず、有効活用できない現状があった。そこで、Jリーグが共通プラットフォームの開発を推進。「JリーグID」が2017年に完成した。チケットやグッズの販売チャネルをリーグが1つのプラットフォームに集約し、顧客データを一元管理。各クラブがそのデータを自由に使えるようにして、大きなコスト負担無くマーケティング施策を立てやすい環境を整えた。
成果の一つが、ファンの属性に応じたダイレクトメール(DM)を各クラブが送れるようになったこと。ファンクラブ会員か否かなどの属性によって文面を使い分け、画像付きにするなど工夫してDMを送るクラブも増えた。17年12月には月30万通ほどだった各クラブからのDM送信数が、19年4月には900万通以上にまで激増した。
Jリーグは、17年10月から各クラブの担当者向けに、活用方法などを共有するための集合研修を月1回開催。19年からは、導入度合いに応じた3つのコースを用意した。名古屋グランパスのマーケティング戦略や、横浜F・マリノスのダイナミックプライシング(第4回:「『ビジネス力』3位の横浜FM “本拠地併用問題”を変動制料金で解決」)の担当者に依頼し、先進事例共有の場を設けるなど、横展開も目指している。
システム構築から活用推進までを仕掛けたのが、Jリーグデジタル プラットフォーム戦略部 部長の笹田賢吾氏だ。「システムは使われなければ意味が無い。先行クラブの事例で成果が出ることを認めてもらい、徐々に導入してもらえるようになった」(笹田氏)。
取り組みを始めた当初は「リーグに現場はわからない」など、クラブからは厳しい言葉も掛けられたが、J1J2全クラブに足を運び続けた。「トップダウンではないコミュニティーづくりを意識した」(笹田氏)。時には飲み会もして、時間をかけて信頼関係をつくっていった。
「EC事業者が当然のようにしているデジタルマーケティングがようやくできる状態になった。これからの取り組み次第で、かなりの収益・集客増加につながると考えている」(笹田氏)。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。