デジタルイノベーションの最新トレンドを体感できるイベント「日経クロストレンド FORUM 2019」(日経BP主催、2019年7月24~25日に都内で開催)では、NTTドコモが次世代高速通信規格「5G」に関する取り組みを紹介した。5Gの魅力や、想定されるユースケース、今後の戦略などを明らかにした。
NTTドコモ 5G・IoTソリューション推進室の担当部長である有田浩之氏は、日経クロストレンド FORUM 2019で「5G時代のビジネス協創に向けた取り組み -さまざまなパートナーさまと創る未来-」と題して講演した。
有田氏は、5Gの魅力は大きく3つあるとした。「高速・大容量、低遅延、そして多数接続だ。高速・大容量になることでモバイル環境はより快適になる。低遅延という特徴によって、今までできなかったことも実現する。さらに多数接続が可能になるおかげで、IoT(インターネット・オブ・シングス)機器が100万台単位でネットワークにつながる世界がやってくる」。
振り返ると、1993年にNTTドコモが第1世代として投入した携帯電話機の通信速度は、わずか毎秒2400ビット。それが4Gでは2019年冬に、毎秒1.576ギガビットになる見通しで、26年間で54万倍に高速化したことになる。「携帯電話は約10年ごとに大きな進化を遂げてきているが、さらに5Gでは最終的に毎秒20ギガビットになる。半導体の成長法則“ムーアの法則”を越える勢いで、高速・大容量化のイノベーションはまだまだ続く」(有田氏)。
積極的にオープンイノベーションを推進
NTTドコモが5Gのユースケース作りで力を注ぐのが、地方自治体や外部企業とのオープンイノベーションだ。2017年以降だけで16の地方自治体と連携協定を結び、各地域が抱える課題を解決すべく取り組んでいるという。中でも5Gに関して積極的なのは、街づくりを推進したい群馬県前橋市、産業振興や子供の貧困対策、防災・防犯などに役立てようとしている大阪府、さまざまな分野で5G活用を検討している広島県などだ。
「実証実験も、これまで150以上の実績がある」と有田氏。一例として、和歌山県と和歌山県立医科大学で行った遠隔診療を紹介した。地域診療所に勤務するドクターが、患者に関する高精細診断画像を5G経由で総合病院にリアルタイム送信し、都市部の専門医からアドバイスを行う実験を行った。また熊本県阿蘇市では、災害時に立ち入りが困難なエリアにドローンを飛ばし、現地の4K映像を5Gで伝送して現状把握に活用したという。
最も興味深い取り組みとして時間を割いて取り上げたのは、東京の技術系スタートアップ企業H2L(東京・江東)と組んで実施したVR(仮想現実)サービスの実験だ。沖縄県北部にあるマングローブの森をカヤックでこぐ様子を360度映像として収録し、これをリアルタイムに東京へ伝送。東京でVRヘッドセットを付けた人が、カヤックを疑似体験できるようにした。
こだわったのは、H2Lは筋変位センサーを活用して手や腕の動きの情報も遠隔へ送信する技術を用いて、現地のこぎ手が手で何かを触れた感覚も映像と同時に東京のVR鑑賞者に伝えられるようにした点だ。「高速大容量の5Gの魅力は、ほかの最新技術と組み合わせることでさらに引き出せる好例と言えよう」(有田氏)。
同社は2019年9月にプレサービスとして5Gを開始し、2020年春に商用サービスとして本格提供する計画だ。2018年2月に開始した「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」には2800を越える企業や団体が参加し、5Gを使った新たなビジネスの創出に取り組んでいる。「世界最大級の5Gの“輪”をNTTドコモは抱えている。この強みを生かし、多彩なアイデアが来年以降具現化していくはずだ」(有田氏)と語り、講演を締めくくった。
(写真/中村宏)