アスクルの強さの秘密に迫る特集の第1回では、岩田彰一郎社長兼CEO(最高経営責任者)に今後の方向などを聞いた。2回目からは30~40代の働く女性をメインターゲットにする「LOHACO」や事業所向けの「ASKUL」で、どのように商品を開発し、高い顧客満足度と業務の効率化を両立しているかを、開発の現場からECサイトのUXデザインまで、さまざまな角度から探っていく。

 日用品・食品の通販などを手掛けるBtoCの「LOHACO」と、オフィスや医療機関、建設現場など事業所向け用品を扱うBtoBの「ASKUL」で毎年、6~7%増と着実に売上高を伸ばしているアスクル。2019年5月期決算を7月に発表するが、順調に推移するもようだ。特に注目されるのがLOHACOの動きだろう。18年5月期の売り上げは417億円と前年比6.9%増。ASKULの売り上げは3026億円で同3.7%増だったので、売り上げではASKULの約14%しかなかったが、伸びはASKULの約2倍になった。19年5月期決算では、さらに売り上げを伸ばし、アスクルの強固な基盤になる可能性を秘める。

 「LOHACOやASKULでも、当社の成長を支える仕掛けはユニークな商品の開発だけでなく、受注から納入までを顧客体験として提供していることだ。そのためには、社内外のデザイナーやクリエイターによるデザインの力と、ビッグデータやAI(人工知能)といったテクノロジーが重要になっている」と話す岩田社長兼CEOに、今後の方向性や考え方について聞いた。

岩田 彰一郎 氏
アスクル社長兼CEO
1973年、ライオン油脂(現ライオン)入社、ヘアケア商品開発等を担当。86年プラス入社、92年プラスの新規事業であるアスクルの開始に当たり、アスクル事業推進室室長に就任。97年の分社独立とともに代表取締役社長、2000年より現職。03年には経済同友会に入会し、04年度より幹事、08年度から12年度まで副代表幹事を務める。12年5月より幹事

BtoCのLOHACOやBtoBのASKULといったEC事業は、すでに多くのユーザーを獲得しています。特にライフスタイルまでも売り物にしているLOHACOの商品はデザインの面でも注目を集めています。一方で、ビッグデータやAIに代表されるテクノロジーの動きもEC事業にとっては見逃せません。LOHACOやASKULは今後、どのよう経営方針で臨んでいくのか、お聞かせください。

岩田氏 当社はデザインとテクノロジーを両輪とした経営スタイルを推進しています。LOHACOやASKULでも、使いやすく、日常の生活や事業所を豊かにする商品が求められています。まず重要になるのがデザインの視点です。さらに商品をお客さまに分かりやすくサイト上で示し、一刻も早くお届けするには、最新のテクノロジーも不可欠です。商品を開発し、受注してから納入するまでの一連の流れこそがユーザーエクスペリエンスであり、いかに向上させるかがアスクルの課題です。

 このため、デザインとテクノロジーの両輪を回すことが求められる。そして、この両輪をスムーズに回すための仕組みをどう作るか、変化するお客さまの要望にどう応えるかという点に対して現在、取り組んでいるのが「アルゴリズム」の開発です。

アルゴリズムでビジネスを考え、回していく

 アルゴリズムを簡単に言えば、問題を解くための手順を定式化した形で表現したものです。アスクルのビジネスはLOHACOでは100%、ASKULでは約80%のお客さまとネットでつながっています。アルゴリズムは数式で表現しますので、当社もできればビジネスを数式で表現してきたいと思っています。お客さまに一番いいサービスを提供し、しかもビジネスを効率化できるといったアルゴリズムを作っていきます。

 ただ、このアルゴリズムの開発が意外に難しい。アスクルが提供したい価値が、単純な数式には乗りにくいからです。特にLOHACOは、安い商品を提供すればいいというビジネスではなく、ライフスタイルを豊かにできる気づきを与え、独自の価値を提供することが求められます。それに合ったアルゴリズムを作らないといけません。LOHACOの画面で売れ行きの順に商品を表示するなら簡単ですが、お客さまのライフスタイルを豊かにするにはどうしたらいいか、ユーザーエクスペリエンスを高めるにはどうしたらいいか、などを考える必要があります。

 このためアスクルのエンジニアと営業、デザイナーが一体となったチームを設け、さらに外部機関とも共同で取り組んでいます。何が問題なのか、どう解決すればいいのか。商品の開発はもちろん、受注から納入までをデザインとテクノロジーを融合させたアルゴリズムで回していきます。

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