2019年7月、「7Pay」がセキュリティーの甘さから不正ログインを許す事件を起こし、利用者の間に不安を募らせた。だが、これでキャッシュレス決済の普及を目指す動きが止まったわけではない。小売店を開拓する領域では、大手IT系の事業者を軸に徐々に陣営が固まってきた。「日経トレンディ」8月号掲載の図を利用して、現状を見渡す。

「プレミアム“キャッシュレス”フライデー」と銘打ち、経済産業省とキャッシュレス推進協議会が主導して、業界全体でキャッシュレス推進のキャンペーンを、2019年3月とゴールデンウイークに実施。さらに同年10月から20年6月まで、政府が「キャッシュレス・消費者還元事業」を実施してキャッシュレスの普及に励む
「プレミアム“キャッシュレス”フライデー」と銘打ち、経済産業省とキャッシュレス推進協議会が主導して、業界全体でキャッシュレス推進のキャンペーンを、2019年3月とゴールデンウイークに実施。さらに同年10月から20年6月まで、政府が「キャッシュレス・消費者還元事業」を実施してキャッシュレスの普及に励む

 「2025年までに決済全体に占めるキャッシュレス決済の割合を40%にまで引き上げる」──政府が掲げるこの目標を達成するには、コンビニエンスストアやドラッグストアのような大手チェーンだけではなく、中小・零細の小売店、いわゆる“個店”にまでキャッシュレス決済の手段が普及する必要がある。

 クレジットカードや非接触決済の電子マネー、デビットカードといった既存のキャッシュレス決済の手段は、これまでこうした個店への普及に成功しなかった。そこで、これら既存の手段に比べて、初期導入費用が低く、かつ決済手数料も相対的に安いQRコード決済サービスに、普及促進の期待がかかる。

 この個店の開拓という視点からみると、主要なQRコード決済サービス事業者が、徐々に3大陣営と、そこに属さない独立派という構図に収れんしつつあるように見える。

 まず、第一の陣営は、LINE Pay(東京・新宿)が運営する「LINE Pay」、NTTドコモが運営する「d払い」、メルカリ100%子会社のメルペイ(東京・港)が運営する「メルペイ」の“連合”だ。

 この3社は、それぞれが開拓した加盟小売店網を相互に開放したり、共同で新規開拓を進めたりする目的で、加盟店アライアンス「Mobile Payment Alliance」(MoPA)を組んでいる。図1で示すLINE経済圏を構築しつつあるLINE Payと、後発のメルペイが2019年3月にまず手を結び、同じくdポイントを軸にNTTドコモ経済圏を構築しつつあるNTTドコモが、同年6月に後から乗った格好だ。

 もっとも、小売店の負担する決済手数料でみると、LINE Payは方式限定・期間限定だがゼロ、メルペイは原則1.5%、NTTドコモは3%以上と違いがある。普通に考えれば、導入ハードルの低いLINE Payが先頭を切って個店を開拓し、残り2社がそこに相乗りする構図に見えなくもないが、実はこのアライアンスのミソは、ゲートウェイ(決済代行)会社であるデジタルガレージが提供するソリューション「Cloud Pay」にある。

Cloud Payを小売店に売り込むのはNTTドコモの代理店

 Cloud Payは、ユーザーが自分のスマホで店頭のQRコードを読み取って決済する静的QRコード方式に特化したソリューション。小売店は、Cloud Payが提供する1つの静的QRコードを印刷して店頭に置くだけで、Cloud Payに対応した複数のQRコード決済サービス事業者の決済アプリに対応できる。今のところ、d払いが先陣を切って対応。訪日中国人観光客の利用を見込んで、中国の2大QRコード決済アプリである「支付宝(アリペイ)」と「微信支付(ウィーチャットペイ)」、さらにLINE Payとメルペイも、順次対応をしていく予定だ。

Cloud Payのこの画面を印刷して店頭におけば、静的QRコード方式で決済ができる
Cloud Payのこの画面を印刷して店頭におけば、静的QRコード方式で決済ができる

 ユーザーがどの事業者のサービスで決済しても、決済手数料は一律3.24%必要になるが、小売店は各事業者ではなくデジタルガレージとのみ契約すればよいため、他のゲートウェイ会社が提供する各事業者との契約や端末導入のための初期費用が必要なマルチ決済端末サービスと比べると、導入のハードルは低いといえる。

 そして、強力な販売網を持たないデジタルガレージに代わって、このCloud Payを実質的に個店に対して営業するのが、「全国に散らばるNTTドコモの販売代理店」(NTTドコモのスマートライフビジネス本部プラットフォームビジネス推進部の伊藤哲哉ビジネス推進担当部長)というわけだ。

 それも、代理店が個店と契約にこぎ着けた場合には、ドコモがデジタルガレージからその際に得る手数料などを原資に、代理店に支払うインセンティブの体系をきちんと整備して開拓に当たる。総務省の方針により、端末を販売して得られる販売奨励金に頼った従来の販売代理店のビジネスモデルが揺らいでいる今、ドコモの代理店の目の色が変わる可能性は高い。ドコモが全国の個店を新たに開拓し、残り2社がその加盟店網に相乗りするという構図が、実情にもっとも近そうだ。

 この3社連合にはもう1つ特徴がある。主に大手チェーンや都市部の中小小売店などに広がっている、既存のキャッシュレス決済のインフラを活用することに、あまり抵抗がない点だ。

 言い換えれば、既存のキャッシュレス決済手段が導入されている小売店ではユーザーにその決済手段を使ってもらい、コンビニ、ドラッグストアのような日常生活に不可欠な小売店や、これまでキャッシュレス決済と縁遠かった個店については、事業者が自力で開拓してユーザーの利便性を高める、という戦略を採っているといってもよい。

 例えば、LINE Payはジェーシービー(JCB)と提携。現在、約90万台普及しているとされる非接触決済の電子マネー「QUICPay」の端末が置かれた小売店でも、「Felicaチップ内蔵のAndroid端末」にスマートフォンの機種が限られるが、LINE Payを使えるようにした。さらに米Visaとも提携し、仕様は未定だが、近い将来、国内外で約5400万に達するVisa加盟の小売店でも、LINE Payアプリをかさずだけで、決済が可能になる見込みだ。

 メルペイも、三井住友カードと提携し、こちらも約90万台普及しているとされる非接触決済の電子マネー「iD」の端末が置かれた小売店で、メルペイの利用を可能にした。さらにJCBとも提携して、同社が開発した、いわゆる共通QRコード決済規格「Smart Code」を採用した。Smart Codeは、LINE Pay、KDDIが運営する「au PAY」、ゆうちょ銀行が運営する「ゆうちょPay」なども採用で合意している。もっともJCBは、まずはこれまで開拓してきた国内外約3000万のクレジットカード加盟店を主な対象に、Smart Codeの普及を図ろうと考えている。このため、メルペイなどSmart Codeを採用した事業者から見ると、JCBとの提携は、QRコード決済サービスが利用できる小売店の拡大にはつながるものの、キャッシュレス決済を広く普及させるための新たな個店の開拓にはつながりにくいという面がある。

図1 スマホ決済&ポイント完全マップ その1
図1 スマホ決済&ポイント完全マップ その1
マップはスマートフォンが関連する主な決済やポイントのサービスを対象にした。ネット決済専用の「Paidy」や、請求書決済用の「PayB」など、店頭での利用を想定していないサービスも含む。還元率は、キャンペーンや特定店舗での増分を除いたもの。Felicaを搭載したAndroidスマートフォンの利用者は、LINE Payを「Google Pay」に登録することで「QUICPay」対応店舗でのタッチ決済が可能になるが、端末が限定されるのでマップ上には記載していない
出所:日経トレンディ19年8月号

小売店の負担を極力減らす方針のPayPay

 第二の陣営は、ソフトバンクとヤフーを親会社に持ち、図1で示すソフトバンク経済圏を構築しつつある、PayPay(東京・港)が運営する「PayPay」である。全国に20カ所の拠点を設け、そこに数千人の営業部隊をそろえて、地場のチェーンや個店などを積極的に開拓している。

 そのおかげで、18年10月5日のサービス開始から約7カ月で、利用可能な店舗数は60万カ所を超えた。既存勢力であるクレジットカード会社や同業であるQRコード決済サービス事業者と提携せずに、独力で開拓した店舗数としては、今のところ業界最大規模といってよい。大手チェーンはもちろん、全国の個店が数多く含まれている。

 個店の開拓という視点から見たPayPayの特色は、小売店側の負担を極力減らすという哲学が鮮明なところだ。LINE Payと同じく方式限定・期間限定だが、小売店が負担する決済手数料はゼロ。初期導入費用もゼロに抑えている。

 それだけではない。現在、PayPayは、小売店がユーザーに対して、アプリへのプッシュ通知などで割引セールなどの情報を知らせることができるマーケティング機能を開発中。先行して同種の機能を小売店に提供するLINE Payや、PayPayと同じく開発段階にあるNTTドコモなど競合他社の多くは、マーケティング機能の提供に当たって何らかの対価を得る方針。しかし、PayPayは、小売店に対して無償で提供する予定だ。

 さらに、Yahoo!マネーをPayPayに統合し、オンラインとオフライン(リアルな小売店)のキャッシュレス決済を共通化した。そのうえで、19年秋にはヤフーがPayPayブランドの新しいECサービスとしてフリマアプリ「PayPayフリマ」とプレミアムなオンラインショッピングモール「PayPayモール」を開始すると発表した。リアル店の開拓だけでなく、グループ会社の力を使ってPayPayで決済できる場をオンラインにも広げ、ユーザーの利便性向上も図っていく腹づもりだ。

楽天は手数料に見合ったサービスを提供する

 第三の陣営は、楽天ペイメント(東京・世田谷)が運営する「楽天ペイ」である。19年3月に、コード決済の「楽天ペイ」と電子マネーの「楽天Edy」、それに個人間送金などを可能にする「楽天キャッシュ」、ポイントサービスの「楽天ポイントカード」の機能を統合した、新しい楽天ペイアプリをリリースした。図1で示すように、楽天スーパーポイントを軸に、キャッシュレスの世界でも楽天IDを持つ楽天会員にとって利便性の高い、楽天経済圏を築こうとしている。

 小売店への姿勢はある意味でPayPayとは真逆だ。3%台の決済手数料を負担してもらう代わりに、手数料に見合ったサービスを提供するという方針を堅持する。具体的には、「楽天のメディアパワーを使って加盟小売店を紹介して送客する、小売店側でユーザーに対して割引クーポンを配信できるようにする、アプリ上の小売店検索機能を充実させて個店に対して送客できるスキームを構築する、といったサービスを検討している」(楽天ペイメントの小山幸宏ペイメント戦略室室長)という。言い換えれば、個店を開拓できるかどうかは、楽天ペイメントが用意する小売店向けサービスが、小売店にとって充実したものになっているかどうかにかかってくるわけだ。

 JR東日本が運営する非接触決済の電子マネー「Suica」との提携(20年春開始予定)を機に、自社のみで市場を開拓する姿勢から、「他のキャッシュレス決済手段とオープンに提携するという姿勢に転換した」(小山氏)という。もっとも、誰とでも手を組むわけでなく、「楽天ペイアプリを使ってSuica対応の交通機関を利用できたり、対応端末で決済できたりする」というような、楽天会員にとってのメリットがはっきり見える提携だけに応じ、後は従来通り、小売店の開拓もユーザーの加入促進も、自社グループで進めていくことになりそうだ。

信金の営業力を駆使して個店開拓に励むOrigami

図2 スマホ決済&ポイント完全マップ その2
図2 スマホ決済&ポイント完全マップ その2
出所:日経トレンディ19年8月号

 これら3つの陣営には規模で劣るが、既存のクレジットカード会社や銀行が、これまでキャッシュレス決済を普及させることができなかった中小・零細のいわゆる個店を開拓するという意味で見逃せないのが、図2で示すOrigami(東京・港)が運営する「Origami Pay」だ。

 Origamiは18年に信金中央金庫と資本業務提携を結んで、全国の信用金庫を味方に付けた。地場の小売店と取引している全国の信金職員の営業力で、地方のいわゆる個店を地道に開拓し、Origami Payの導入店を増やしている。

 また決済プラットフォームそのものを「提携Pay」として企業に開放し、企業のアプリに組み込んで利用しやすくしている。企業は提携Payを利用することで、自社アプリを利用する会員に、Origamiや信金などが開拓した小売店で利用できるQRコード決済機能を提供できるわけだ。

 地域の金融機関を巻き込むという取り組みでいえば、みずほ銀行が19年に始めたQRコード決済サービス「J-Coin Pay」には約60の地方銀行が参加しているし、日本電子決済推進機構がデビットカードの決済インフラを活用して同年10月にサービスを始める予定のQRコード決済サービス「Bank Pay」には、1000以上の金融機関が参加する予定だ。

 しかし、実際に地方で商売する地場の小売店と最も取引しているのは、地銀ではなく、地元に根を張る信用金庫や信用組合である可能性が高い。その意味で、Origami Payの存在感は無視できないといえる。

 今は3大陣営プラスOrigamiと、そこに属さない独立系に分かれて、中小・零細、特に地方の小売店の開拓にまい進しているQRコード決済サービス事業者だが、今後もさまざまなプレーヤーとの間で合従連衡が起こる可能性は高い。まずは10月に予定されている消費増税のタイミングが、1つの節目になるだろう。

(写真/新関雅士)