本格的なキャッシュレス決済普及期に差し掛かった日本。目に見える現金を単に“バーチャル”に転換するだけでなく、支払いタイミングなど根本的な「お金の流れ」まで踏み込んで使い勝手を劇的に高める工夫をする動きも生まれつつある。昨今急激に消費者が支持し始めたのが、実店舗での「後払い」キャッシュレス決済だ。
「後払いのキャッシュレス決済を導入したところ、客の35%が使ってくれるようになった。従来の店舗より店内オペレーションが劇的に効率化した」。フリーの美容師が時間借りできるシェア型美容室を運営するGO TODAY SHAiRE SALON(東京・渋谷)の副社長、大池基生氏は驚きを隠せない。同社は2019年4月、全14席の青山店をオープンし、クレジットカード決済に加えて、決済サービス事業者ネットプロテクションズ(東京・千代田)の後払いキャッシュレス決済「atone」を導入した。
美容室業界初の完全キャッシュレスを掲げた店舗では、毎日入れ代わり立ち代わり様々な美容師がはさみを握る。現金管理の手間を省き、美容師に作業に専念してほしいと考え、完全キャッシュレス化に踏み切った。通常は現金で払う客の大半が、atoneによる後払いを選んでいるという。
後払いキャッシュレス決済の使い勝手は、通常のQRコード決済に近い。代金がその場で銀行口座やチャージ残高から引き落とされたり、ひもづけてあるクレジットカードで支払われたりしないのが違いだ。決済時もしくは事前に、利用者一人一人を審査して割り当てられる「与信枠」内で、後払い決済事業者に立て替え払いしてもらう形をとる。審査は入るが瞬時に終わるため、1秒ほどで支払いが完了する。利用者は、後日定められた期限までにコンビニエンスストアなどで支払えばよい。
後払いキャッシュレス決済はもともと、通販会社やECサイトで導入が始まった。一躍その存在を知らしめたのは、16年11月にスタートトゥデイ(現ZOZO)がECサイト「ZOZOTOWN」で開始した「ツケ払い」だ。刺激的なテレビCMでキャンペーンを打ったことから一時“炎上”騒ぎが起こったが、開始10カ月で利用者が100万人を突破するなど堅調に普及。結果として、他の後払いキャッシュレス決済も利用が拡大した。追い風を受けたことで、後払いキャッシュレス決済サービス事業者は実店舗へと触手を伸ばしている。
冒頭のネットプロテクションズのatoneの場合、スマートフォンアクセサリー販売の「UniCASE」(11店)、コミック専門店「とらのあな」(5店)なども導入済み。「他にも、飲食イベント会場やファミリーセール会場、音楽ライブ会場などで、単発で採用されるケースも多い」(atoneグループシニア・サービスプランナーの杉山崇氏)。まだ実店舗展開はテスト中だといい、19年秋から本腰を入れて加盟店開拓に動くという。
携帯電話番号だけで審査完了するサービスも
先行したZOZOも、グループ会社でEC構築支援を手掛けるアラタナを通じて19年5月、後払いキャッシュレス決済の実店舗向けサービスを開始した。店舗向けのキャッシュレス決済支援で実績のあるCoineyと共同開発した、「ツケ払い powered by Coiney」がそれだ。
最大の特徴は、決済時に専用アプリを使わず、店舗の決済端末に利用者が自身の携帯電話番号を入力するだけで審査が済む点にある。携帯電話番号を手掛かりに過去の利用・支払い実績を瞬時に調べ、問題がなければ上限2万円(初回利用の場合)の与信枠内で利用を認める。本人確認はその場で携帯電話番号宛てにSMSでメッセージを送り、本人が同意すると決済が実行される仕組みだ。支払い期日はZOZOTOWNと同じで、最長2カ月後までにコンビニなどで支払えばよい。
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