クレジットカード「アメリカン・エキスプレス」が、牛丼チェーンのすき家での利用促進キャンペーンを仕掛けた。意外な組み合わせの背景には、日常生活に関わるあらゆる決済データを得ることで本格的なキャッシュレス時代を生き残ろうというカード会社のもくろみがある。

(写真/Shutterstock)
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 期間中にすき家で合計1500円以上をカード払いすると、500円をキャッシュバックします――。5月からそんなキャンペーンを仕掛けているクレジットカード会社がある。世界最大のカード会社アメリカン・エキスプレス・インターナショナル(以下、アメックス)だ。日本では富裕層向けのステータスの高いカードというイメージが強い同社が、庶民的な牛丼チェーンでの利用促進を行うのは奇妙に感じる。

 アメックス日本法人で金融事業とマーケティングを担当する副社長の増岡聡氏は、「アメックスは伝統的にトラベルやエンターテインメントに力を入れてきたが、それだけでなく日常生活に必須のツールになりたい。こういった場所でも使っていただいていいのですよ、ということを伝えるためのオファーだ」と話す。

 アメックスは2019年4月から「アメックス・オファー」と呼ぶこうした取り組みを強化。以前は割引を受けるためにカード番号などを登録する必要があったが、公式アプリやサイトでワンクリックするだけで参加できるようにした。その結果、参加登録する割合は以前よりも上がっているという。

身近な店舗での特典が並ぶアメックス・オファー。ワンクリックで参加登録が可能
身近な店舗での特典が並ぶアメックス・オファー。ワンクリックで参加登録が可能

 そして、「参加登録すると実際にカードで支払う率も上がる」(増岡氏)。最近のオファーを見ると、インテリアのニトリやフリマアプリのメルカリ、居酒屋の庄やなど身近な店舗やサービスが並ぶ。果たしてアメックスのユーザーが使う業態なのかと疑問にも感じるが、「先着5万人の利用枠いっぱいまで登録されることが多い」(同氏)というから驚きだ。

オファーで得られたキャッシュバック額はWebサイトで確認できる
オファーで得られたキャッシュバック額はWebサイトで確認できる

 アメックスが日常的な決済への利用を推進するのはなぜか──。もちろん、決済が増えれば得られる手数料も増えるが、これまで強みとしてきたトラベルやエンターテインメントと比べると、得られる金額は1桁、場合によっては2桁小さい。それでも利用を促進する真の狙いは、決済で得られるデータの取得にある。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの増岡聡副社長
アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの増岡聡副社長

 「ユーザーの財布の中には、アメックス以外にも複数のカードが入っていることが多い。ユーザーが行う決済全体の中でアメックスが使われる割合を引き上げることで、個人の購買行動の分析の精度も上がる」(増岡氏)。

 例えば、不正利用の検知。ユーザーが普段買い物をしている店舗やWebサイトと異なる場で取引が行われた場合、不正利用の可能性がある。しかし、普段からアメックスのクレジットカードが決済に頻繁に使われていないと、その判断は難しい。どのような店舗でも同じカードで支払っていれば、不正利用を検知する精度は高まるのだ。またアメックスの場合、一律の利用限度額を設けておらず、決済状況を見ながら柔軟に変更している。この与信枠の設定も、購買行動の分析精度が上がれば、より精緻にできる。

 購買行動の分析精度が向上して得られるメリットは、他にもある。「同じ属性の他のユーザーの利用状況と比較してカードの利用が少ないカテゴリーがあれば、そのユーザーは他社のカードか現金を使っている可能性がある。そこで、アメックスの利用を勧めるオファーを出すことができる」(増岡氏)。冒頭で紹介したアメックス・オファーのうちいくつかのものは、こうした分析で割り出された特定のユーザーだけに送っていると明かす。

構造的に不利な立場にあるカード会社

 これをさらに進めて、特定の店舗やサイトへの送客につなげることも可能だ。実際、日本以上にキャッシュレス化が進んでいる米国本社では、「Aという店舗で購入すると、次はBという店舗で購入する可能性が高い」などとユーザーの購買行動を先読みし、割引クーポンなどを配信する研究が進んでいるという。

 ただし「ここはデリケートな部分だ。やり方に気を付ける必要がある」と増岡氏。「行動を覗き見られているように感じて、不快に思う人もいるだろう。ユーザーが便利だと実感できるようなレベル感でオファーを出すことが重要」と見る。