独自の電子マネー機能付きポイントカードを運用してきたゼンショーホールディングスが、共通ポイントの複数導入にかじを切る。キャッシュレス決済のメリットの1つとして顧客情報を取得しやすいことが挙げられるが、実効性のあるソリューションはまだ見いだせていないのが現状だ。
「いつものお支払い方法でCooCa(クーカ)ポイントがたまります」――。2019年2月以降、牛丼チェーンの「すき家」や回転寿司の「はま寿司」、ファミリーレストランの「ココス」など、ゼンショーホールディングス傘下の飲食店約3700店でこんな掲示が目に付くようになった。CooCaとは、ゼンショーが15年に導入したグループ共通のハウス電子マネー。決済200円に付き1円相当のポイントがたまるのが売りだった。それが、この電子マネーで決済しなくてもポイントがたまるようになったのだ。
それだけではない。4月には「楽天スーパーポイント」「Pontaポイント」「dポイント」という、主要な共通ポイントサービスの導入も発表。7月以降、順次利用できるようになる。その結果、電子マネーからポイントカードに位置づけが変わったCooCaと合わせて、利用客は4つのポイントから1つを自由に選べることになるのだ。
なぜ、ハウス電子マネーに見切りをつけてポイントカード化したのか。そして、なぜ3つもの共通ポイントの導入に踏み切るのか。
CooCaを運営するゼンショー・クーカ(東京・港)の渡辺泰治社長は「CooCa導入時には3つの効果を狙っていた」と振り返る。キャッシュレス化による利便性の向上、チャージや決済でのポイント付与によるお得感の打ち出し、そして顧客属性の把握だ。ところが3年間運用した結果、「電子マネー利用者の性別や年齢に偏りがあり、店舗の利用者の傾向と必ずしも一致しなかった」(渡辺氏)。よく店舗を利用するヘビーユーザーには想定以上に使われているものの、ユーザー数は伸び悩んでいたという。事前にチャージが必要なプリペイド式電子マネーだったため、ゼンショーグループの店舗を頻繁に利用する一部の利用者にしか受け入れられなかったのだ。
決済を条件とする限り、これ以上の広がりは見込めない。そこで決済とポイント制度を切り離すことにした。既存ユーザー向けに電子マネー機能は残すものの、チャージ時のポイント付与キャンペーンを終了したため、他の決済手段と比較して特に有利というわけでもない。
さらに「ポイントカード化するのであれば、独自のポイントにしぼる必要はないのではないか」(渡辺氏)として、共通ポイントの導入に動いた。「ライバルと比べると後発でのポイント導入ということもあり、導入できる共通ポイントはすべて使えるようにした」と渡辺氏。その結果、前例のない3つの共通ポイントの一斉導入が決まった。
確かに利用客にとっては好きなポイントが選べて便利だろう。しかし、それぞれ異なるポイントカードを出されて顧客管理に不都合はないのだろうか。この点について渡辺氏は「我々が重要と考えるのは、年齢や性別など大まかな属性情報と、来店タイミングや頻度などのビッグデータ。各ポイントカード事業者から得られる情報を統合すれば分析可能だ。個人情報を取得して個別に販促することは考えていない」と話す。むしろ、ポイントカードを1種類に絞るよりも提示率が上がり、データを捕捉しやすくなると計算しているのだ。
乱立するコード事業者の多くが狙っているように、確かに決済に個人情報がひも付けば、これまで以上に効果的なマーケティング策を打てる可能性は高い。しかしそれは、多くのユーザーが1つの決済手段を使うのが前提となる。現状のキャッシュレス決済の状況はまだそこまで到達していないことを、ゼンショーの方針変更が証明している。
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