小売店にとってキャッシュレスは単に決済手段の変革にとどまらない。現金を扱わないことで、店舗でのサービスの在り方も変えられる。その1つが、来店前に注文と決済が完了するモバイルオーダー。レジ要員を減らせるとして注目を集めるが、逆に“おもてなし強化”に活用するのが日本マクドナルドだ。
- マクドナルド「未来型店舗体験」を試した
- 日本ではセルフレジより「モバイルオーダー」が合う
- モバイルでの事前決済で、弁当の注文が相次ぐ
- 小売店がモバイルオーダーを重視すべき理由
東京都心からクルマで約1時間。東名高速道路の御殿場インターを降りると程なくマクドナルド御殿場インター店に到着する。見た目はどこにでもある日本マクドナルドの店舗だが、2019年4月からその名も「未来型店舗体験」が導入された店舗の1つだ。果たしてどこが“未来型”なのか、実際に試してみた。
マクドナルドといえば、最初にレジに並んでメニューを注文するのが当たり前。しかしこの店では、通常のレストランと同じように、直接テーブルに向かっていい。着席したらスマホで「モバイルオーダー」アプリを起動(現在はiOS版のみ)。まず店舗を選択し、それからメニューを選ぶ。セットメニューを注文するなら、メインのハンバーガーを決め、次にサイドメニューを選び、最後にドリンクを選択する、といった具合だ。サイズの変更なども簡単にできた。
メニューを確定させると、次に受け取り方法の選択画面が出てくる。店内で食べる場合は、従来通りカウンターで商品を受け取る方法の他に、スタッフが席まで商品を持ってきてくれる「テーブルデリバリー」が新たに加わった。各テーブルに番号が表示されているので、その番号を入力する。
では、会計はどうするか。支払いはアプリ上で行うので、現金は使えずキャッシュレス決済のみ。現時点ではクレジットカードとLINE Payが利用可能で、今後、楽天ペイとd払いにも対応することが決まっている。今回はLINE Payで支払ってみた。
支払いが完了すると、アプリが「ただいまお作りしています」という画面になり、2分ほどでスタッフがハンバーガーを席まで持ってきてくれた。レジに並ぶ必要はなく、席を立つことすら不要。セルフサービス式のファストフード店では考えられなかった店舗体験だ。このために、レジの外に立って来店客をサポートするスタッフ「ゲストエクスペリエンスリーダー」も新たに導入されている。
サービスを大胆に変えられたのは、カウンターでの現金のやり取りが発生しないからだ。とはいえ、単純にレジをセルフ化する選択肢もあったはず。実際にキャッシュレス化で日本の先を行く中国やオーストラリアのマクドナルドの店舗では、タッチパネル式のセルフオーダーレジの導入が進んでいる。
今回あえてそうしなかったのは、接客に対する要求度が高い日本ならではといえる。レジがセルフ化できても、メリットがあるのはスタッフを減らせる店舗側だけ。利用客にとっては、むしろ手間が増えてしまう。しかしモバイルオーダーならレジに並ぶ待ち時間がなくなるうえ、事前に注文できるのでゆっくりメニューを選べる。さらにテーブルデリバリーを選択すれば商品を受け取りにカウンターまで出向く必要もないと至れり尽くせりだ。実際、「テーブルデリバリーを体験した来店客の満足度は上がっている」(日本マクドナルド)という。
もちろん、マクドナルド側にも利点がある。新サービスでは接客を手厚くしつつも、スタッフ数は変わらず、配置の変更で対応できているという。今後モバイルオーダーの比率が高まれば、サービス水準を維持したままで従業員数を減らせる可能性もありそうだ。
現在、モバイルオーダーは静岡県内の75店舗に先行導入中。19年中に全国2900店のうち約半数に導入するのが目標という。身近なマクドナルドの店舗でもレジに並ぶことなく食事ができる日は、もう目の前まで来ている。
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