革新的マーケターを選出する「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」。最後の入賞者は、映画『ボヘミアン・ラプソディ』を空前のヒットに導いた、20世紀フォックス映画の星野有香氏と柳島尚美氏だ。映画宣伝では異例のコアファン層を狙うなど、大胆かつ緻密に練られた戦略により、当初目標の20億円も難しいと評された興行収入が驚異の130億円超え。世界の中でも突出した成功を収め、1本の映画を社会現象へと昇華させた点を評価した。

日経トレンディ「2019年ヒット商品ベスト30」6位に「ボヘミアン・ラプソディ」が選ばれた。クイーンを知らない若者までが熱狂し、音楽CDも163万枚売れた映画は、どんな仕掛けで成功したのか。仕掛け人のインタビューをお届けする。(2019年11月1日追記)
(右)20世紀フォックス映画マーケティング本部長で、『ボヘミアン・ラプソディ』宣伝戦略の責任者、星野有香氏。GEM Partners、パラマウント・ジャパン、ギャガ、電通テックを経て、2018年から現職。(左)同マーケティング本部シニア マネージャーで、『ボヘミアン・ラプソディ』宣伝プロデューサーの柳島尚美氏。パラマウント・ジャパン、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントを経て、2018年から現職
(右)20世紀フォックス映画マーケティング本部長で、『ボヘミアン・ラプソディ』宣伝戦略の責任者、星野有香氏。GEM Partners、パラマウント・ジャパン、ギャガ、電通テックを経て、2018年から現職。(左)同マーケティング本部シニア マネージャーで、『ボヘミアン・ラプソディ』宣伝プロデューサーの柳島尚美氏。パラマウント・ジャパン、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントを経て、2018年から現職

 英国のロックバンド・クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーの半生を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』。興行収入130億円超をはじき出し、2018年公開映画で国内トップとなったばかりでなく、歴代16位という音楽映画としては類を見ない大ヒットを記録した。世界の興行収入1008億円から見ても、日本は米国に次ぐ2番目という突出した成功を収めている(数字はいずれも19年5月時点)。

 しかし、この成功は約束されたものではなかった。むしろ、音楽映画故に厳しい顔をした関係者も多く、当初は興行収入5億円を狙って宣伝費2億円をかけるというレベルの意見もあったという。この下馬評を覆す戦略を採った宣伝チームの責任者が20世紀フォックス映画マーケティング本部長の星野有香氏で、その右腕となったのが同マーケティング本部シニア マネージャーの柳島尚美氏だった。

『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年11月9日、日本公開)。クイーンのメンバーであるブライアン・メイとロジャー・テイラーが音楽総指揮を担う ©2018 Twentieth Century Fox
『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年11月9日、日本公開)。クイーンのメンバーであるブライアン・メイとロジャー・テイラーが音楽総指揮を担う ©2018 Twentieth Century Fox

 そもそも、日本の宣伝チームが映画の本編を見られたのは、18年10月23日に英国でワールドプレミアが行われる僅か2週間ほど前だったという。そんな状況下で、どういった施策を事前に打ったのか。

ポテンシャル調査を行い、常識破りのコアファン狙い

 最初のカギになったのが、18年6月に届いた予告編だった。7月に同社のFacebookでその予告編を公開したところ、143万回再生を記録し、約800ものコメントが集まる。「予告編ローンチの際は大よそ100万円くらいの予算を投じ、20万~30万回再生に持っていくことはできる。通常、広告のプッシュによる露出が90%程度を占めることを考えても、たった100万円程度で143万回という再生回数や、多くのコメント、拡散効果を得られたのは尋常ではない結果。動画広告を宣伝に使うようになって5、6年、こんなに熱いコメントが膨大に集まったことはない」(星野氏)。予告編を見たファンが、好きであるが故の拒否反応を示すこともなく、“自分のもの”として受け入れた兆しだった。

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