革新的マーケターを選出する「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」。4人目は、1人前の冷凍チャーハンをカップに詰めた「カップごはん」を生み出した、セブン-イレブン・ジャパンの子出藤 優氏だ。「冷凍食品=家で食べる」という常識を覆し、新たな消費者行動を生み出した点を評価した。

※選考条件や評価項目、その他の選出マーケターは、第1回の記事「革新的マーケター6人を選出!マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」

セブン-イレブン・ジャパンの商品本部 FF・惣菜部 FF・冷凍食品 マーチャンダイザーの子出藤 優(ねでふじ ゆう)氏。2004年入社、店舗経営相談員(OFC)を経て、12年より北海道地区商品部MD。15年に商品本部 冷凍食品担当MD、18年よりカウンターFF担当MD
セブン-イレブン・ジャパンの商品本部 FF・惣菜部 FF・冷凍食品 マーチャンダイザーの子出藤 優(ねでふじ ゆう)氏。2004年入社、店舗経営相談員(OFC)を経て、12年より北海道地区商品部MD。15年に商品本部 冷凍食品担当MD、18年よりカウンターFF担当MD

 家に持ち帰り、皿に盛ってチンして食べる――。こんな冷凍チャーハンの常識を覆した革新的商品が、セブン-イレブンの「カップごはん」シリーズだ。

 冷凍チャーハンといえば、これまで袋入りで大容量のファミリー向けが主流の中、同シリーズは1人前の冷凍チャーハンがカップに入った全く新しい形態。コンビニで弁当類と同様に電子レンジで温められるのに加え、オフィスなどで温めて気軽に食べられるのが斬新だ。従来品では想定していないオフィスの昼食需要を取り込むなど、新たな消費スタイルを生み出した。

「炒め油香るカップチャーハン」「バター香るカップ海老ピラフ」は各213円(税込み)。業務用の1500Wでのレンジ加熱に対応するために容器を新開発
「炒め油香るカップチャーハン」「バター香るカップ海老ピラフ」は各213円(税込み)。業務用の1500Wでのレンジ加熱に対応するために容器を新開発

 2018年11月に「セブンプレミアム 炒め油香るカップチャーハン」「セブンプレミアム バター香るカップ海老ピラフ」2種の本格発売がスタートすると、SNSで「革命的」「神商品」などと話題に。既存の袋チャーハンの2倍の勢いで売れ、同社の冷凍食品全体の売り上げ増を大きくけん引した。その新型カップごはんを生み出したのが、セブン-イレブン・ジャパンの商品本部 FF・惣菜部 FF・冷凍食品 マーチャンダイザーの子出藤 優(ねでふじ ゆう)氏だ。

「『データ』だけでは答えは見つからない」

 子出藤氏が冷凍カップごはんを着想したのは、とある販売データに疑問を持ったのがきっかけだ。16年ごろ、冷凍食品の担当になって1年ほどがたったとき、1人前(150g)の袋入り冷凍チャーハンのPOSデータを見ていてある異変に気づいた。

 「業界では、冷凍食品は家に持ち帰って食べるのが定説であり、常識だった」と子出藤氏が語るように、当然、販売数量が多いのは住宅街の店舗。だが、データを細かく見てみると、住宅街の店舗に混じって、「◯◯高校前店」「◯◯大学店」といった店が意外なことに上位に食い込んでいた。中には、全国平均の10倍以上も売れている店舗すらあったのだ。

 不思議に思った子出藤氏は、すぐに現場へ足を運んだ。そこで見たのは、学生たちが小型の冷凍袋チャーハンを店頭のレンジでチンし、スプーンを突っ込んでそのまま食べる姿。「まさに衝撃だった」と子出藤氏は当時を語る。疑問に思った子出藤氏は早速学生に話を聞いた。返ってきた答えは、「温かくておいしいし、おにぎりを2つ食べるよりも安くてコスパがいい」というもの。当時、1人前の冷凍チャーハンは150円程度。「『自宅以外で食べる』冷凍食品に新しい可能性がある」と、子出藤氏は確信を持った。

「何を買っているか」よりも「何を思って買っているか」

 子出藤氏が、店舗で新機軸の冷凍食品作りのヒントを発見したのは偶然ではない。日々、現場(店舗)での観察を重視しているからこそ、たどり着けたのだ。「データは気づくきっかけにはなるが、答えは現場に行かないと見つからない」。その言葉の通り、子出藤氏は店舗に足しげく通う。仕事中はもちろん、朝晩の通勤の途中にも、必ず家の近くの店を訪れて定点観測。ランニング中にも立ち寄る徹底ぶりだ。

 それも、社員として店長やスタッフに話を聞きに行くだけでなく、時には1人の客として商品や人の動きを観察している。子出藤氏が心がけているのが、何を買ったのかだけではなく、消費者の行動にも気を配ること。さらに、「他社のコンビニに調査をしに行くことは、あえてしない」というのも子出藤流。他社のマネではなく、とことん消費者の行動だけにポイントを絞りたいという思いからだ。

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