革新的マーケターを選出する「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」の2人目は、PayPay(東京・千代田)の藤井博文マーケティング本部長。QRコード決済「PayPay」は100億円を投じた還元策を2018年12月に実施し、後発ながら他に類を見ない早さで利用者を獲得。登録者数は700万を超えた。100億円を利用者への還元に活用することの決断力、大きな影響を市場に与えたことが評価された。同企画は「景品表示法の限界」への挑戦から生まれた。
※選考条件や評価項目、その他の選出マーケターは、第1回の記事「革新的マーケター6人を選出!マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」に
「ここ最近の愛読書は『エッセンス景品表示法(古川昌平著)』」。PayPayコーポレート統括本部の藤井博文マーケティング本部長にマーケティング業務のバイブルを尋ねると、その返答はあまりにも意外だった。だが、この本こそが、18年12月に話題をさらったPayPayの100億円還元キャンペーンの成功に欠かせない1冊だった。
PayPayを利用して支払った金額の20%を全員に還元(上限5万円)。さらに40回に1回、抽選で全額(最大10万円まで)がキャッシュバックされるキャンペーン「100億円あげちゃうキャンペーン」は、読者にとっても記憶に新しいだろう。18年12月3日の開始と同時に、瞬く間に参加者が拡大。わずか10日間で、キャンペーン予算の100億円が底を尽きた。藤井氏は同企画の責任者だ。
その効果は絶大だった。10日間のPayPay利用者数は、190万人を記録。登録者数はサービス開始から約半年で700万人を超え、累計のトランザクション数は5000万件を超えた。「ソフトバンクグループの歴史を振り返っても、類を見ない早さで認知と利用者を獲得できた」と藤井氏は言う。
キャンペーン成功に3つのこだわり
PayPayはQRコード決済市場で後発に当たる。参入に当たり、藤井氏は巻き返しには「分かりやすさ」「利用者へのインパクト」、そして「面白さ」の3つを満たすマーケティング施策が必要になると考えた。「施策のゴールはブランド認知、利用登録、そして支払いへの利用までのカスタマージャーニーの初期段階を体験させること」(藤井氏)。QRコード決済市場はまだそれほど広がっておらず、3つのポイントを満たす施策で、最初のQRコード決済利用者をPayPayで獲得できると考えた。
ただし、単にテレビCMを大量投下するだけでは、利用まではつながりにくい。必然的にアプリをダウンロードして、利用したくなるキャンペーン設計が求められた。「プロモーションとキャンペーンの予算配分はかなり議論した。だが、『分かりやすさ』を追求するには、直接利用につながるオファーが一番」と藤井氏は判断した。オファーとは、利用することで得られるキャッシュバックを指す。
まず、いくらの還元なら、「利用者へのインパクト」を出せるのか。藤井氏が過去にグループで実施した事例を調査したところ、旅行予約サービス「Yahoo!トラベル」で実施した、20億円を投じたキャンペーンが最大規模だった。ここから、その5倍の100億円であれば、世の中に大きな影響をもたらす金額になるのではないかという結論に至った。数字でみてもキリが良い。
キャンペーンの裏テーマとも言えるのが「景表法への挑戦」だった。100億円という枠組みの中で還元率を何%にするか。当初は、支払金額の20%よりも低い還元率を検討していた。しかし、低率の還元ではインパクトを生み出しにくい。そこで、「日本の法律で定められている限界はどこか。予算枠を思いっきり使い、突き詰めることを決めた」(藤井氏)。ここで、藤井氏のバイブル「エッセンス景品表示法」の登場だ。法に抵触しないキャンペーン設計をする上で、徹底的に読み込んだという。
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