日経クロストレンドと日経トレンディが革新的マーケターを選出する「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」。その1人目が、新業態「ワークマンプラス」を生んだワークマンの土屋哲雄氏。作業服専門店のイメージを大転換し、高機能&低価格のアウトドア・スポーツウエアを武器に新市場を創造した点を評価し、選出した。
※選考条件や評価項目、その他の選出マーケターは、第1回の記事「革新的マーケター6人を選出!マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」に
「旋風」は列島全土へ。新業態で躍進するワークマン
作業服を主力とする“職人の店”である「ワークマン」に、一般客が大挙して訪れる。こんな珍事が全国で巻き起こっている。その起爆剤となったのが、同社の一般向け新業態「ワークマンプラス」だ。
低価格かつプロ品質のアウトドアウエアやスポーツウエアを打ち出し、2018年9月に「ららぽーと立川立飛」(東京都立川市)に初出店すると入場制限がかかるほど客が殺到。開業から半年の売上高は、計画比の2.2倍を記録した。
一般向け商品はワークマン既存店にも並んでおり、人気の余波は全国に拡大。19年3月期には、チェーン全店売上高が前期比で16.7%増の930億3900万円に達し、営業利益、経常利益、純利益はすべて20%を上回る大幅増益をたたき出した。ワークマンはワークマンプラスの積極出店もあり、店舗数は19年5月末で840店。日本国内に限ればユニクロの822店(5月末時点)を抜き去り、快進撃を続けている。そのワークマンプラスをゼロから立ち上げたのが、ワークマン常務の土屋哲雄氏だ。
新たな軸を加えて「空白市場」を生み出す
土屋氏がワークマンプラスの構想を練り始めたのは、今から4年ほど前に遡る。プロ向けのニッチ分野で首位の座を盤石なものとしていたワークマンだが、「作業服市場は全国1000店、売り上げ1000億円が天井」と土屋氏は分析。すでに飽和状態で、成長に陰りが見えていた。そこで、新たな鉱脈探しをスタート。目を付けたのが、作業服の技術や製品作りを生かせるアウトドアやスポーツウエアの市場だった。
だが、いざ参入の検討を始めたところ、「知名度の高いブランドがひしめく市場で、勝てるイメージが全く湧かなかった」と土屋氏は頭を抱える。
従来のワークマンは、「米経営学者、マイケル・ポーターの『Five Forcesモデル』の条件を満たす優位性を持ち、それが強さの源泉になっていた」(土屋氏)。Five Forcesモデルとは、「業界内の競合」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」の5つの視点から競争力を分析するフレームワークであり、同社はまさにこの5つの力を満たす稀有(けう)な例。新規参入や競合他社の脅威が極めて少ない、「ブルーオーシャン」を突き進んでいた。
対して土屋氏が参入をもくろむアウトドア・スポーツ業界は、高価格帯の強いブランドを持つメーカーに加え、ユニクロをはじめとしたファストファッションも参入し、低価格帯でも競争が激化していたレッドオーシャン。高価格帯、低価格帯、どちらに戦いを挑んでも苦戦を強いられるのは明確だったのだ。
だが、土屋氏は一つの突破口を見つけ出す。高価格か低価格かという価格軸に加え、機能性という軸を組み合わせたところ、市場の見え方は一変。「『低価格でプロ品質』というゾーンがぽっかりと空いていた」(土屋氏)のだ。調べてみると、この空白地帯には、何と4000億円もの市場規模があることが判明。一見するとレッドオーシャンだった市場から、軸を変えることでブルーオーシャンを探し出した。
SC店は広告塔に活用。既存店への誘客に
1号店をショッピングセンター(SC)のららぽーとに出店したのにも狙いがある。それは、「広告塔」として活用するためだ。
土屋氏はあるとき、ニトリなどの路面店中心の業態がSCに入っているのを見て、並んでいる商品が既存のものでも異なるイメージを受けるということを体感。そこから、「商品が同じでも、売り場や見せ方次第でターゲットを変えられる」という発想にたどり着く。
事実、ワークマンプラスには“プラス専売品”はない。ワークマンプラスは、ワークマンの膨大な商品群のうち、一般受けするカジュアルウエアを中心に“切り出した”専門店。店の外観や売り場をスタイリッシュに見せることで、イメージを刷新しただけだ。
その新たなイメージを際立たせるため、土屋氏は従来のワークマンのイメージとは対極の都市型SCに狙いを定める。それが、ららぽーとだった。その戦略は見事に当たり、SC店には従来のプロ層ではなく一般客が押し寄せ、その盛り上がりがSNSで拡散。メディアの露出も増え、まさに「広告」に。既存店も販売実績を大きく伸ばした。
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