各種のSNSや「YouTube」など、動画広告のほとんどがブランディング目的と言われる。ユーザーの可処分時間の中でネットサービスが占める割合がさらに高まる中、マーケターはデジタル業界で広がるブランディング広告の波をどう受け止めるべきか。先輩社員「ヒロセ」が、新人「ユカ」に解説する。

ネット広告やデジタルマーケティングに精通する先輩社員。新人ユカの教育係になった。見た目はクールだが、ネット広告の話になると熱くなって止まらなくなる。

ネット広告会社に新卒で入ったばかりの新人女性社員。元気とやる気は人一倍あるが、難しい用語は苦手。ヒロセのボケに対して絶妙なツッコミをする。

今回から2回に渡り、ブランディング広告について紹介していこう。さてここで問題です。ブランディング広告とは何でしょう?

ええっと、イメージをよくするための広告……でしょうか!?

うん。端的に言えば、ユーザーに商品を自発的に選んでもらうための広告のことだな。ここ数年のデジタル業界の中で、ブランディング広告の存在感が高まっているんだ。

そういえば「Instagram」でもかっこいい動画の広告をよく見ます。

そうした動画広告の多くがブランディング目的で、今後さらに増えていくことは間違いない。だからこそアドテクを学ぶ上でも、ブランディング広告の実態を知っておくことが大切なんだ。
デジタルにおけるブランディング広告は増加していますが、ブランディングに慣れていないな、と感じる広告の事例を見ることや、マーケターに出会うことが多々あります。デジタル広告を活用してブランディング施策を行うにあたり、マーケターが意識すべきポイントやKPI(重要業績評価指標)の立て方、陥りやすい失敗パターンを紹介していきます。
ブランディングが成功すると、どんなハッピーなことが起こるのか? その前に、そもそもの話ですがブランディングをなぜやる必要があるのかを考えたいと思います。筆者は「ブランド、ブランディングって何ですか?」と聞かれると、大抵こう答えます。
ゲタです。ふざけているわけではなく、本当にその程度のシンプルなものだと思っています。ブランドというゲタを履くことで、その商品は競合商品よりも有利な初期ポジションから勝負でき、また価格が多少高くてもユーザーに選んでもらえる。それがブランドという見えないゲタが持つ魅力です。
「手に取らせる」些細な差を作る
例えば、あなたがスーパーで買い物をしている時にコーラを飲みたくなったとします。商品棚にはコカ・コーラやペプシコーラの他に、見たことも無いようなコーラが並んでいます。でも、多くの人はコカ・コーラかペプシコーラを選ぶでしょう。
では、コーラを飲みたいのがあなたではなく、一緒にスーパーについてきたあなたの子供だったとします。その子供は無名のコーラを手に取り、あなたが持っている買い物かごに入れました。その時、「絶対コカ・コーラにしなさい!」とは言わないですよね?
結局、商品はどっちでも良かったのです。ただ、無意識に何となくその商品を手に取ってしまう。そんな些細(ささい)な意識の差(しかし売り上げとしては大きな差となる)を生むのがブランド力なのです。これを“小さなブランディング”とでも呼びましょう。
一方で“大きなブランディング”もあります。例えば「Apple」「Dyson」「Dior」などのラグジュアリー商材、BtoB商材だと「Salesforce」あたりでしょうか。これらはブランドに対しての絶対的信者を生み、そのブランドを持つこと自体がユーザーのステータスにさえなります。
本連載のテーマである「デジタル上の広告やプロモーション」だけでは、大きなブランディングは実現できません。これには圧倒的な知覚品質が必要なのです。
広告やプロモーションでできるブランディングは、あくまで“小さなブランディング”までです。ただし、小さなブランディングといっても、成功できれば下図のような効果が期待でき、広告主にとって十分に魅力的であるはずです。
- ユーザーに商品を自発的に選んでもらえる
- 価格競争に巻き込まれにくくなる
- 社員が自社に対して誇りを持てる
- (BtoBは特に)営業しやすくなる
- うまくいけば広告出稿のコストが下がる……など
すぐに買わせる「ダイレクトレスポンス」
ブランディング広告を理解するうえで、これとは別のミッションを持つダイレクトレスポンス広告が何かを理解するとより分かりやすいでしょう。
ブランディング広告は自分(自社)から「買ってください」というのではなく、ユーザーから「買いたい」と思ってもらうための広告です。一方で、ダイレクトレスポンス広告は、商品のメリットを伝えることですぐに買いたいと思ってもらうための広告です。
それぞれ目的が全く違うのです。目的が違えば、利用するクリエイティブや効果検証方法も変わってきます。
ダイレクトレスポンスとブランディングの最も大きな違いはPDCAサイクルを回す領域です。ダイレクトレスポンスは、購買に至るまでの段階を示すファネル(漏斗)の後半、購入に近い層に対してアプローチし、PDCAを回します。“ユーザーの具体的なアクション”を評価指標とするため、PDCAが回すスピードが速いことが特徴です。
一方でブランディングの場合はファネルの前半のマジョリティにアプローチします。評価指標は“ユーザーの意識の変化”であり、計測が困難かつ対象となるユーザーやステップ数が多いため、施策や効果検証の難易度がダイレクトレスポンスよりも高くなります。
ダイレクトレスポンスとブランディング広告の違いを詳しくまとめると下記のようになります。
ブランディング広告は、ユーザーの意識を変化させないといけないため、動画やインタラクティブ(ミニゲームが楽しめるなど操作が楽しめる広告)、記事体裁型などの情報量が多いクリエイティブ(広告の成果物)を用いることが有効です。
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