最近は各メディアで生成AI(人工知能)の「ChatGPT(チャットGPT)」という言葉を見ない日はありません。記事に「生成AIで無くなる仕事」などと書かれていると、そこに広報が含まれていないか、つい確認してしまうという筆者の遠藤眞代さん。もはや広報業務の一部がAIに置き換わるのは避けられないと感じているとか。そこで遠藤さん、ChatGPTに初挑戦して、契約している企業のプレスリリースを作ってみたそうです。今回はその前編をお届けします。
数日前、飲み会である方からこんな打診を受けました。
「ウチの会社の広報が一時的にいない状況なんだけど、米国本社のプレスリリースを日本語訳するという仕事を、お願いできたりしますかね?」
それに対して「既に情報開示されているプレスリリースを日本語訳して掲載するだけなら、どなたかが(翻訳サイトの)DeepLやChatGPTとかを使って、日本語のプレスリリースを作ってもいいかもしれません」と伝えたところ、「確かにそうですよねー」となりました。
情報漏洩に影響のないプレスリリースの作成や、和訳・英訳の大部分は近いうちに生成AIなどに置き換わるケースが増えていくでしょう。私もまだ使い始めたばかりなので、分からないこともありますが、実際に“全くの知識ゼロ”から試して気付いたことをまとめてみたいと思います。
他社のリリースを参考に「たたき」を作る
広報の仕事には守秘義務がつきものです。機密情報を扱いますから、現時点において新規のプレスリリースの作成をChatGPTに委ねるのは基本的にはナシでしょう。かといって、目の敵にするよりもうまく使ったほうがいいのではないか、というのが私の考えです。新しい流れを柔軟に受け入れられなくなったら広報として失格ですし、嫌だと言っても大きな流れには逆らえません。会社の方針にもよりますが、前述のような情報開示済みの情報であれば問題なし、という判断もあり得るでしょう。
2023年4月13日に、ネットを使ったライブ配信を手掛けるLivePark(東京・港)という会社が、「全社員のAIツール活用促進を目的に『ChatGPT Plus』等の使用料を全額サポート」というプレスリリースを出しました。機密事項を含まないシンプルな内容でしたから、せっかくなのでChatGPTの力を借りて作成しました。数分で作れるだろうと甘く見ていたところ、完成までに意外と手間取りました。
まず、LiveParkと同じように社員に対してChatGPTの利用を促進している他社のプレスリリースを、ChatGPTに読み込ませてみることにしました。出力された結果を、今回の「たたき(ドラフト)」にできないかと考えたわけです。その際、主語となる企業名を「株式会社L」とするほか、「業務の一部のAI化を見越した活用の模索」「社員のAIへの理解を促し、より質の高いサービスの提供」というフレーズを盛り込んでプレスリリースを作成するよう指示を出しました。心配だったので、社名をそのまま使うのは避けました。その結果がこちらです。
【株式会社L、AIを活用した業務改善を目指し、社内研修プログラムを開始】
株式会社L(本社:〇〇市、代表取締役:〇〇 〇〇)は、AI(人工知能)技術を活用した業務改善を目指し、全社員を対象とした研修プログラムを開始することを発表しました。
近年、AI技術は急速な進展を遂げ、企業における業務効率化や新たな価値創造に大きな期待が寄せられています。株式会社Lは、業務の一部のAI化を見越した活用の模索を図るため、社員一人ひとりがAI技術について理解し、適切な活用ができるように研修を実施します。
研修プログラムでは、AIの基本的な知識や活用事例について学ぶほか、実際のAIツールを用いた演習を行うことで、社員が直接AI技術を体験することができます。また、研修を通じて社員のAIへの理解を促し、より質の高いサービスの提供に繋げることを目指しています。
株式会社Lは、この研修プログラムにより、社員が新たな技術に対応し、企業全体でのイノベーションを推進することができると期待しています。今後も同社は、技術の進歩に合わせて研修内容を随時更新し、さらなる業務効率化やサービス向上に取り組んでまいります。
株式会社Lは、〇〇年に設立され、〇〇業界において幅広いサービスを提供している企業です。同社は、顧客のニーズに合わせた最適なソリューションを提案し、業界の発展に寄与しています。
とりあえずこのたたきを、現在LiveParkの役員で、テクノロジー情報サイトのGIZMODO JAPAN(ギズモードジャパン)や動画メディアのbouncy(バウンシー)で編集長をされていたいちるさんに見ていただいたところ、「たぶん『GPT-4』なら、もっといい感じに書いてくれるはずですよ」とのこと。しかし、ここで大きな壁が立ちはだかります。有料版のGPT-4にしたところで、これ以上何をどう聞いたらいいのか見当がつかなかったからです。
ChatGPTをどう使いこなせば、精度の高いプレスリリースを作成できるのか……。途方に暮れていたところ、いちるさんとLiveParkの安藤聖泰社長から「遠藤さんに情報収集が得意な部下ができたと思って指示を出してみるといいですよ」とアドバイスを受けました。
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