3大会ぶり、3度目の優勝で幕を閉じたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。中でも決勝戦の9回裏に見せた大谷翔平選手と米国マイク・トラウト選手との一騎打ちは、野球史に残る対戦として長く人々の間で語り継がれるでしょう。つまり今回のWBC関連のニュースは「賞味期限」がどれも長そうで、広報にとっては羨ましい限り。そこで筆者の鈴木正義さんは大谷選手がWBCで放ったホームランに注目しました。

東京ドームで開催されたWBCの1次ラウンド対オーストラリア戦。日本代表の大谷翔平選手が放ったホームランが広報的においしい理由とは…… ※画像はイメージ(画像提供:Natchamas/Shutterstock.com)
東京ドームで開催されたWBCの1次ラウンド対オーストラリア戦。日本代表の大谷翔平選手が放ったホームランが広報的においしい理由とは…… ※画像はイメージ(画像提供:Natchamas/Shutterstock.com)

自社ニュースの「賞味期限」、何とか延長できない?

 この原稿が公開された2023年3月のちょうど今ごろ、我がアドビは人工知能(AI)を使った画像生成についての発表を行い、世間をアッと言わせている予定です。もしアッと言っていない読者の方がいれば、それは大変申し訳ありません(何に対して謝っているのか自分でも分かりません)。

 しかし、どんなビッグニュースにも賞味期限のようなものがあり、やがて世間から忘れ去られてしまいます。SNSやネットで情報が飛び交う現代、その「賞味期限」はせいぜい1週間ではないかと思います。ましてやAIといえば日進月歩で新しい技術が登場し、次々と新しい話題に上書きされていきます。

 世間が注目する分野になかなか話題を提供できない企業広報からすると、羨ましいと思われるかもしれません。しかし、話題性のあるニュースはありがたい一方で、社内の関係者は全人類の目が自社サービスに集まっている、注目されて当然、と勘違いしがちです。その結果「ウチの会社だけ記事が出ていないじゃないか」などと、社内から圧をかけられてしまいます。しかし実際には時と共に自社のニュースへの関心は下がっていくのです。

 これは広報担当にとって、なかなかきついことで、何とかしようと次々ネタを放つのですが、これがかえってよろしくありません。気が付くとインパクトの弱いプレスリリースを連発し、マスコミからはすっかりジャンクメール扱い。そうとは気が付かず当の広報は「記事が出ない、出ない」と熱病にうなされているかのごとく、毎晩うわごとを言うようになってしまいます。

 こうした事態に対し、私のように楽をすることしか考えていない広報担当者は、ネタを次々投入し自転車操業をするよりも、何とかして繰り返しニュースに取り上げてもらえるネタを当てられたら、と妄想を膨らませます。いわば少なくても構わないので「賞味期限の長いニュース」を出す工夫をするわけですが、これには幾つかパターンがあると思います。

 まず、何と言っても優勝で日本国中が沸いたWBCの1次ラウンド、対オーストラリア戦で大谷翔平選手の放った看板直撃ホームランがその典型でしょう。決勝トーナメント進出を決めた一打、規格外の飛距離、そして何よりも自分が広告キャラクターを務める企業の看板に当てるという「千両役者」ぶりが大きな話題になりました。恐らく23年のスポーツを振り返るシーンのみならず、向こう数年にわたって大谷選手やWBCを語る上で欠かせない映像になるでしょう。

 このように歴史的瞬間にからんだ、というパターンです。

 ただ、それってかなり偶然じゃないかと言われるとその通りです。もう少し自分たちの努力で何とかなりそうな作戦はないものでしょうか。それは一つのニュースジャンルとなっている分野で、一定のポジションを勝ち取ることだと思います。

 手前味噌ですが、例えば私が勤めるアドビは、たまたまサブスクリプション(定額課金)というビジネスモデルの第一人者的なポジションを獲得できています。幸いにして「サブスク」というキーワードもニュースネタとして長く扱われていますので、そのたびに「サブスクといえばアドビなどが」と触れてもらえますし、サブスクについての取材も後を絶ちません。

 他にもコンピューターのセキュリティー問題といえば◯◯社、車の自動運転といえば△△、という具合に、常にマスコミが追っているテーマで「その件はここに取材しなければ」「特集で絶対入っていなければならない企業」というポジションを獲得できると、後はもう自動的に自社のニュースがどんどん生成されてくるので、かなり賞味期限を長くできます。広報担当は適当に忙しそうなふりだけしていればいいということになります。

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