広報の仕事をする方々の間で、この連載の認知度が高まってきました。それもあってか、筆者の鈴木正義さんも、他社の広報担当者からいろいろな相談を受けるそうです。今回は現在話題の「ひとり広報」の方からの、社長に言われた一言に関する相談についてです。せっかくメディアへの露出を獲得したのですが、「意味がない」と言われてしまいました。さて、鈴木さんのアドバイスは…。

「それでも地球は回っている」。地動説を唱え、裁判にかけられたガリレオ・ガリレイ。彼が受けたプレッシャーが「ひとり広報」にも? (画像提供:madjembe/Shutterstock.com)
「それでも地球は回っている」。地動説を唱え、裁判にかけられたガリレオ・ガリレイ。彼が受けたプレッシャーが「ひとり広報」にも? (画像提供:madjembe/Shutterstock.com)

社長に「こんな露出じゃ意味がない」と言われてしまった

 「私なりに工夫して産業紙やITの専門媒体の露出を獲得してきたのですが、『こんな露出じゃ意味がない!』って社長に言われてしまったんです」――。

 私がこの連載を書いているためか、時々広報の同業者から相談を受けることがあります。ちなみに「鈴木は広報の達人」という間違った印象(そう、間違っているのです)を持つ方もいるようですが、私の広報としての実力はせいぜい平均点程度であることを、ここで高らかに宣言しておきたいと思います。

 そんな私になぜ相談が来るのかよく分かりませんが、とりあえず連帯保証人になってほしいという内容でもなければ、相談はできる限りお聞きすることにしています。

 それはさておき、冒頭のコメントはそうした相談に来た方の一言です。その会社はまだまだ起業して間もないスタートアップで、しかもかなり専門的なテクノロジーを扱っているため、失礼ながら一般的な知名度はほぼゼロという状態でした。そしてこの方は、いわゆる「ひとり広報」だったのです。

 ひとり広報とは、読んで字のごとく社内に広報が1人しかいない状態のことですが、昨今その難しさ(裏返して言うとやりがいがある仕事)から、広報分野のセミナーなどでもテーマとして取り上げられています。どんな点が難しいかと言いますと、まず今回の相談者が属するスタートアップのように、企業規模も小さく知名度が低いことです。スタートアップの事情として新規顧客開拓はもとより、資金調達や社員の採用なども考えれば、何はなくとも会社の知名度向上は必達事項で、必然的に広報に期待がかかってきます。

 冒頭のコメントは、このような広報への期待(プレッシャー)がある中で発せられたと思われます。社長の立場からすると、産業紙や専門媒体に露出しても一般的な知名度向上にはほとんど影響しない。一方の広報からすると、この会社の事業内容に関心を持って記事化してくれる媒体の範囲で精いっぱい成果を出している……となるわけです。

 ひとり広報の難しさは、広報活動が周囲の期待に沿わなかった場合、本人以外は社内に誰も専門知識を持った人がいないため、何がうまくいかない原因なのか客観的な分析ができないという点にあります。さらに、得てして「自分は広報業務の知見を持っていない」ということに気が付かない人たちに囲まれています。このように、天動説を唱える人々に囲まれたガリレオ・ガリレイのような存在が、ひとり広報なのです。

 昨今広報(PR)と言っても、解釈にかなり幅が出てきています。SNSでショート動画を投稿している「広報」もいれば、新聞社や通信社とやり取りしている「広報」もいますし、広告代理店にお金を払ってタイアップ企画をやることも「広報」だったりします。

 これがある程度時間をかけて、その会社なりの「うちの会社では広報ってこういうことだよね」という合意ができていればいいのですが、どのような広報がこの会社にとって最適なスタイルなのか、という組織の目的と機能をしっかり設計せずにスタートしてしまうと、思いがけず低い評価を下されてしまうかもしれません。スタートアップを立ち上げました、広報も立ち上げましょう、となったときにこの点は注意したいですね。

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