人生、何が転機となるか分からないものです。筆者の遠藤眞代さんは、まずソニーを退社してフリーランスの広報になったことが大きな転機となりました。そして今回、初の著作を出版し、これも何かの転機になりそうです。大きな決断をするときは、いつも心の中に潜んでいる、もう一人の「広報の自分」と向き合うそうです。
経営者が嫌がるお節介アドバイス
このコラムを書いている今日は、連載を一緒にやっている鈴木正義さんとの共著で、私自身初の著書でもある『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』の発売前日です。のび太くん並みに寝付きが良いのが自慢の私ですが、この日はなかなか寝付けない上、夜中に起きてしまいました。信じたくありませんが、よほど不安なのでしょう。
さて、ソニーを辞めてから、今回書籍を出版していただくまでの約10年、フリーランスの広報として試行錯誤してきました。今回はこれまでの仕事の分岐点となりそうな著書の出版を機に、これまでの自分を少し振り返ってみようと思います。これから独立する方、起業される方の自己広報(セルフブランディング)に役立つかもしれません。
私はお節介なので聞かれてもいないのに広報のアドバイスをしてしまい、玉砕することがあります。意外かもしれませんが、アドバイスして最も嫌がられるのは、経営者の方に対して「SNSなどで定期的に情報発信したほうがいい」というものです。
「何を書いていいか分からない」「代わりにやってくれないか」「そういうふうにアピールして、自社のビジネスを拡大するのは本意ではない」「そんなこと百も承知だが、やっていない」と返されることも多く、途端に相手は不愉快極まりない顔に。そもそもアドバイスなんて私に求めておらず、私のお節介なのですから嫌がられても仕方ありません。
広報の立場からすると、ビジネスを知ってもらうためには「とりあえず可能性のあることを全部やろうよ!」と思ってしまうものです。しかもSNSの活用は無料です。なぜそんなに怒るのだろうと、つねづね不思議でなりませんでした。
今回書籍の告知を目的としてSNSにいくつか投稿して分かったのですが、確かに人の目が気になるものですね。広報として情報発信するときとは違った感情が生まれました。目立ちたがりと思われるなど反感を買わないか? といったようなモヤモヤです。あーこれか、これが嫌なのですね。分かりました。口コミだけのエレガントな手法で大きな話題をつくるのって、奇跡的なラッキーが重ならない限り無理かもしれません。やはり、ちょっと泥くさいことを、腹をくくってやってみたほうがいいです。
鳴かず飛ばずの5年。腹をくくってからの5年
フリーランスになって5年ほどは、迷いに迷い、不安だらけの日々でした。ソニーという後ろ盾を失い、どこの誰でもないフリーランスの広報という立場で、どう立ち振る舞うべきなのか迷走していました。当時は、フリーランスで広報をしている方はまだ少なく、他の人と比較して自分自身の優位性も分からず、「『アルバイト広報』です」と名乗っていました。今思うと本当に良くないのですが、プロフェッショナルだと堂々と言えるほどの自信がなかったように思います。
それでも周りの方のサポートで、どうにか仕事は続けられていました。ただ、今思うと前進している感じもなく、「元ソニー」が賞味期限切れになったら、どこかに就職しようかと考えていました。
4年ほどたったころから、さすがに実績が認められる何かが必要ではないかと、本気で悩み始めました。そして、フリーランスになって5年目直前の2018年2月に、日本外国特派員協会(FCCJ)に準会員(アソシエイト)として入会しました。私はジャーナリストではありませんが、報道関係の仕事で生計を立てていて、なおかつ会員の方の推薦を頂けました。ソニー時代からお世話になっていたジャーナリストの推薦です。
このころからプロの広報としての自覚が出てきたこともあり、会う方々に対して「広報のプロフェッショナル」だと口に出して言うようになりました。そして18年10月に勢い余って会社を設立。そして19年5月からこの連載がスタートし、現在に至ります。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー