肩書は自分のポジションを相手に示す大切な記号。どの企業も似ていますが、突拍子もない名称に変えてみたらどうなるでしょうか。特に社長のような社を代表するスポークスパーソンの場合、思わぬ効果が生まれることも。実はその「肩書」に込めた思いが企業の本当の姿を表しているのかもしれません。
唐突ですが、皆さん会社での「役職」はどのように名刺に書いてありますか。多くの企業では「マーケティング本部マーケティング部CCグループGTMシニアマネージャー」のように、社内の事情が分からない人にはほぼ意味が通じない、長い役職名になっているものです。実はこれがマスコミ泣かせなのです。要するに、記事でその人を紹介するとき、役職名が長いと文字数を使ってしまいますし、そもそも何をしている人なのか何も伝わってこないからです。
今回はそんな厄介者である肩書を、コミュニケーションでうまく使っている会社のスポークスパーソンの例を紹介したいと思います。
ソニーやパナソニックの牙城に挑むスタートアップ
皆さん「RED」というビデオカメラメーカーをご存じでしょうか。知っているという方は、恐らく広告や映像関係のプロの方ではないでしょうか。REDは正式にはレッド・デジタル・シネマカメラ・カンパニーといい、米国のカリフォルニア州に拠点を構える新興の高性能ビデオカメラメーカーです。
かつて筆者は、2006年に米国で開催されたイベントでREDのJim Jannard(ジム・ジャナード)さんという方にお会いしたことがあります。この時ジムさんから頂いた名刺には、日本語で「反乱軍の首領」という意味の肩書が書いてありました(元の英語を失念してしまいました)。はて、初めて見る肩書ですが、いかにも何か意味が込められていそうです。
かのジムさん、実はサングラスなどで知られる米オークリーの創業者としても有名な方です。そのオークリーの経営を人に譲り、「自分はこれからビデオカメラの仕事をするんだ」と言って始めたのがREDで、要するにジムさんはREDの社長というわけです。
しかし、この時ジムさんの名刺には「CEO(最高経営責任者)」とか「President」という肩書が書いていなかったので、周りの人に教えてもらうまで、私はこの方が社長だとは気が付きませんでした。当時業務用のビデオカメラと言えば、ソニー(現ソニーグループ)、パナソニック、キヤノンといった日本の大企業が独占している市場で、REDはこの牙城に挑むスタートアップだったのです。
映像という高い技術が求められる市場に門外漢が参入し、しかも販売ルートや広告の物量ではこれらの大企業の足元にも及ばないREDは、面白い存在ではありますが、市場で存在感を示すのは難しいでしょう。周囲も、ニッチプレーヤーを目指すのだろうというのが大方の見立てでした。
しかし、ジムさんは「反乱軍」と名乗ることで、出来たてほやほやの会社ではあるものの、その視座としては大企業のライバルに割って入るだけの勝算をもって参入しているのだよ、という創業の意志を、このユニークな「肩書」に込めていたのです。実際REDの製品は画期的で、ジムさんのこうした広報的発想もあってか評価はうなぎ登り。今ではCM撮影や映画撮影では欠かせない存在となっています。
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