1本のWeb記事が話題となり、他のメディアに波及して次々掲載が続く“大波”を引き起こすことがあります。ブログやSNSで話題となっている情報の源を探ると、あるメディアのWeb記事だったということもしばしば。だからこそ広報の仕事として、信頼性の高いメディアや書き手を見極め、しっかり情報を届ける重要性が増しているのです。

次々とメディアに掲載される自社の記事。広報なら露出が続く“大波”をうまく乗りこなしたいもの ※写真はイメージ(画像提供:EpicStockMedia/Shutterstock.com)
次々とメディアに掲載される自社の記事。広報なら露出が続く“大波”をうまく乗りこなしたいもの ※写真はイメージ(画像提供:EpicStockMedia/Shutterstock.com)

 広報担当者であれば、商品を発売した後も、メディアへの記事露出の山を継続的につくるといった広報計画を立てる場合も多いでしょう。実際は計画通りに運ぶこともあれば、うまくいかないこともあります。計画通りではないものの、何かの記事が呼び水となり、あれよあれよという間にメディアでの露出が増え、自然と大盛り上がりになることもあります。

 頻繁に起こるわけではないのですが、ひとたび記事露出の“大波”が発生すると、広報担当者は「メディアの皆さん、ありがとー!」と心の中で叫びながら、あたかもサーファーのようにその波にずっと乗り続けていたいと思っているのです。もちろん悪い出来事でも大波は起きますが、ラッキーとアンラッキー、そして何かしらの施策が複雑に絡み合って波は発生するものです。

 Webが日常に浸透し、記事が簡単にネットで検索できるようになってから、ニュースが想像以上に盛り上がる傾向が加速しています。広報としては、何とかメディアの力を借りて初動のウエーブをつくり出し、大きな波を誘発させたいところです。私の経験では、人工的に大波をつくる秘訣は「信頼できるWeb記事」と「事業担当者の協力と理解」にあるように思います。そこで今回は「信頼できるWeb記事」について書いてみようと思います。

「唐揚げサウンド」から脱却したかった

 Twitterが生まれた2006年、ソニー(現ソニーグループ)が発表したイヤホン「MDR-EX90SL」は、まさにWeb記事の恩恵を受けてヒットした商品です。そのトリガーになった記事が、幾つか存在します。

 当時ソニーでオーディオの広報を担当していた私の元に連絡が入りました。ヘッドホンの設計部門の角田直隆さんからでした。

角田さん:遠藤さん、ちょっとお願いがあるんだけど……。

 角田さんにはいつもお世話になっていて、こちらから無理なお願いをすることはあっても、向こうからお願いされることはそれまでほとんどありませんでした。

遠藤:え、何ですか。怖いんですけど……。

 断れないので、私は身構えながらこう答えたと記憶しています。

角田さん:すごく良い商品ができたんだけど、単品カタログもつくられないみたいだから、せめて発表だけはしたいんだよね。埋もれさせるには惜しくて。

遠藤:どんな商品なのか、今度見せていただけますか。

角田さん:もちろんです!

 MDR-EX90SLのメーカー希望小売価格は1万2390円(税込み)。その頃、耳栓タイプのイヤホンで1万円を超えるような商品はあまりなく、主流の価格帯は数千円。高額な商品は、ヘッドバンド型の大型ヘッドホンと相場が決まっていました。「ヘッドホン祭」といったコンシューマー向け展示会のスタートが08年ですから、06年はヘッドホン/イヤホンはまだあまり注目されていない市場でした。

 角田さんがそこまでおっしゃるのであればと、四代目「耳型職人」で音響設計者の太田貴志さんにお会いしました(※編集部注:「耳型職人」とは、フィットするイヤホンをデザインするため、特殊なシリコンを使ってさまざまな人の耳型を採取、作成するソニーの担当者のこと。イヤホン設計グループ内で代々引き継がれており、耳の内部にまでシリコンを流し込むため、熟練を要するその技術は“一子相伝”ともいわれている)。オーディオを視聴する際、設計者にはどういう点に気を使ったのかを伺うようにしています。「人の声、バイオリン、ピアノに注目して試聴してほしい」と言われたことはあるのですが、太田さんは違いました。

 「ライブ音源を聴いたときの『唐揚げサウンド』を解消したかった」

 え、ちょっと待って。何を言っているのか分からない。

 「耳栓型のイヤホンだと、ライブの最後に聞こえる“拍手”が唐揚げを揚げているときの、チリチリ、パチパチしたような音に聞こえてしまうんですよ。それを、“拍手”だと分かるような音にしたかった」と太田さん。

 ああ、そういうことね……。確かにその新しい製品は拍手が拍手として聴こえるし、従来の耳栓型のイヤホンのようなこもった音ではなく、聴いていて疲れない自然に音楽を楽しめるようなサウンドでした。

 すごくいい! でも、音漏れがひどい。ダダ漏れじゃないですか……。

 その当時は耳栓型のイヤホンは屋外用、部屋で音楽を楽しむ屋内用は、耳を覆ったヘッドバンド型のヘッドホンという使い分けがされていた頃ですから、耳栓型で音漏れは厳禁。イヤホンからの音漏れに対し、注意喚起のポスターが電車のホームに貼られていることも多かったように記憶しています。ですから、耳栓型は音漏れしない密閉型が当たり前。そこにがんがん音漏れする構造の開放型を投入するというのですから、「マジか?」となるのも無理はありません。

 そこですかさず質問したら、堂々と「唐揚げサウンド」から脱却するために必要だったと太田さんは答えてきました。その「唐揚げサウンド」という言葉にノックアウトされてしまい、「発表しましょう」ということになりました。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

第1章 広報しか知らないマスコミの素顔
第2章 取材対応こそ危機管理の要
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第5章 天国と地獄が交錯するプレス発表会
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