エンターテインメントの世界で今、トップを走るアーティストと言えばBTSでしょう。素晴らしいのは歌やダンスだけではありません。新曲などの記者発表会も見事な対応を見せます。型にとらわれず、最適な情報発信を実現するその手法を分析しました。

世界を魅了するBTS。記者発表会のやり方についても学ぶべき点は多い(画像提供:Tinseltown/Shutterstock.com)
世界を魅了するBTS。記者発表会のやり方についても学ぶべき点は多い(画像提供:Tinseltown/Shutterstock.com)

広報が他社の発表会を見る機会はとても少ない

 手元に山ほどあるメディアの名刺コレクションを使って、どこかの発表会に潜り込む。そんなことはできないものかとよく想像します。残念ながら、私が持っている名刺で潜入できそうなのは、顔見知りの発表会ばかり。しかし、「あれ、どうして遠藤さんがここにいるの?」と、すぐに面が割れてしまいそうなので、怖くてできません。

 発表会を開催した経験のない企業が広告代理店にサポートを委託するのは、人足の問題だけではなく、“型”が分からないからでしょう。私の場合、ソニー(現ソニーグループ)という恵まれた環境にいたので、日本を代表する幾つもの広告代理店と発表会の仕事をさせてもらいました。担当商品の発表会の仕切りをしながら、さまざまな型を基本から学び、今日に至ります。

 ただ型を知っていたとしても、企業の規模や内容、環境に合わせてアレンジが必要で、オンラインとのハイブリッド開催ともなればなおさらです。「メディア限定」で見ることのできなかった企業の発表会も、現在はオンラインで見られる場合もあります。

 さて、そんなわけで今回はファンや業界関係者でなければ見られないであろう「BTSの発表会」を視聴して気づいたことをまとめました。トップアーティストの発表会は、緻密に設計されており、私が信じて疑わなかった「基本の型」を見直すきっかけになりました。

情報開示のタイミング

 YouTubeで「Global Press Conference(グローバルプレスカンファレンス)」「BTS」で検索すると、いくつか動画が結果に表示されます。これは、「カムバック」と呼ばれる新曲やアルバムリリースのタイミングで行われる発表会動画です。

 2021年5月21日にリリースされたシングル曲「Butter」の場合は、まず13時にデジタルシングルとして全世界同時に公開され、販売開始。その後14時からYouTubeでグローバルプレスカンファレンスが約40分間、配信されました。

 まずこの順番にやられました。私の基本の型は、情報公開と発表会は同じタイミング。やるとしても、秘密保持契約(NDA)を締結したメディアやジャーナリストに、情報開示と同時に記事を公開してもらうといったアレンジ止まり。ところがBTSの場合、昔からよくある、発表会でサプライズを演出する手法とは全く異なっていました。

 発表会当日、私は14時になるまでYouTubeの動画を何度も再生していました。14時の少し前になると、グローバルプレスカンファレンスのYouTube会場で待機です。BTSのファンである「ARMY(アーミー)」や各国のメディアも、誰もが新曲について十分理解している状況を作り出してからの発表会スタート。どんな発表会でも同じことができるとは限りませんが、全世界に同時公開するなど、条件が合えばこのスタイルは選択肢の1つとなり得るでしょう。

すぐまねができる感謝の演出

 記者発表会では、司会と主催者が来場者にお礼を述べるのは当たり前です。私も何十回も進行台本に、型どおりの「本日はお忙しい中お越しくださり、ありがとうございます」を書いてきました。BTSのグローバルプレスカンファレンスも、記者たちが羨ましいと思えるような心憎い挨拶で始まりました。それは、私が今まで手掛けてきた発表会と違っていて、衝撃を受けました。彼らはメッセージを直接届ける対象を明言していたのです。

 思い返せばBTSは授賞式などで感謝の言葉を発する際は、何度もARMYと呼びかけます。熱烈なファンなのですから、ARMY側としてはこの上なくうれしいでしょう。そのグローバルプレスカンファレンスではARMYだけでなく、司会者を含めBTSメンバー全員が発表会のゲストである「記者さん」という言葉を織り込みながら、感謝の言葉を添えて挨拶をしていきました。

 例えば、「いつも良い記事を書いてくださり感謝しています」「記者さんのご質問に対して一生懸命回答するよう頑張ります」といったようなメッセージです。このコメントは、ARMY向けではなく明らかに記者向けです。私はなぜ、こんなに簡単で重要なことに気づかなかったのかと反省しました。

 BTSの場合、独自に発信するSNSやYouTubeに目を奪われがちです。しかしグローバルプレスカンファレンスでは、メディアに対する非常に真摯な姿勢がはっきり伝わってきました。メディアが持つ影響力の大きさを重視しているに違いありません。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2022年12月19日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

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