メーカーにとって頭の痛い、現在の商品不足に部品不足。売りたくても売るモノがないのですから歯がゆい思いでしょう。実はこうしたピンチは以前にもありました。マスコミからの問い合わせにどう対応すべきか、広報を務める筆者の鈴木正義さんは社長の元へ向かいます。そこで告げられた社長の言葉に驚いた鈴木さん。さて、会社はこの危機をどう乗り切ったのでしょうか。

危機対応では経営者の真価が問われます。本当に守るべきものは何? ※画像はイメージ(画像提供:PeopleImages.com - Yuri A/Shutterstock.com)
危機対応では経営者の真価が問われます。本当に守るべきものは何? ※画像はイメージ(画像提供:PeopleImages.com - Yuri A/Shutterstock.com)

「NECはモノがない」と書いてもらえ

 2022年、世界情勢はかつてないほどに不安定で、それは産業界にもさまざまな影を落としています。その1つが部品などの供給不足です。マスコミもこうした情勢がどのようにビジネスに影響を及ぼしているかを広報に取材するわけですが、これは影響を受けている企業側としてはなかなか対応に苦慮する取材になります。こうした産業界全体が影響を受ける事態に対する広報で、忘れられない出来事がありましたので、今回はその話をします。

 それは11年のことでした。まだご記憶の方もいるかもしれませんが、当時タイで大洪水が発生し、テレビのニュースなどでも取り上げられていました。海外のニュースということもあり、さほど深刻な話題にはなっていなかったのですが、実はタイに生産設備が集中していたハードディスクドライブ(HDD)というパソコンに欠かせない部品の生産が壊滅的な打撃を受けていました。

 実際に当時NECパーソナルコンピュータ(NECPC)をはじめ、世界中のパソコンメーカー各社で、徐々に品不足が顕在化し始めていました。このことを察知した新聞社からNECPCは問い合わせを受けることになります。

 こうした産業界横断の問題が発生したとき、矢面に立つのはその業界のトッププレーヤーです。2番手以降の企業であれば「その問題は業界を代表する◯◯社に聞いていただくのがよろしいかと」という逃げが打てますが、NECPCはマスコミから業界を代表する企業と認めていただくべく日ごろから広報活動を行ってきましたから、こうした場合だけ「知りません」とは言えない立場にありました。

 「社長、困りました。どうしましょう」――。当時の社長だったTさんのところに早速相談に行きます。一応こちらも広報の責任部署ですから、手ぶらというわけにはいきません。私の腹案は、とにかくインパクトは少ないというコメントに徹して、大きなニュースになることを避けるというものでした。ところが社長から出た一言は、とても意外なものでした。

 「それはまずい。そんなニュースが出たら、モノがないとお客さんに頭を下げている現場の営業マンを嘘つきにしてしまう。むしろ『NECはモノがない』とはっきり書いてもらいなさい。責任は私がとるので構わない!」

 Tさんは若手社員に対しても「◯◯さん」と呼ぶ物腰の柔らかい人物だったのですが、このときは珍しく毅然とした態度で、ちょっとびっくりしたのを覚えています。社長の指示でもあり、決意のようなものを感じたので、マスコミには「モノが不足している」というような状況を説明しました。

 結果的に、NECが生産調整をしているというニュースがでかでかと新聞紙面を飾り、NEC関連の株価も少し下がってしまいました。正直そこまでインパクトのある記事になるとは想定していなかったので、広報としては「しくじった、あれはやはり“失言”だった」と唇をかんだ覚えがあります。

 ただ、この記事の結果、現場で頭を下げていた営業マンは「新聞にある通りです、何とか資材の調達を行っていますのでもう少し待ってください」というように、誠実な対応ができたと聞いています。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

第1章 広報しか知らないマスコミの素顔
第2章 取材対応こそ危機管理の要
第3章 経営者が知っておくべきマスコミ対応の落とし穴
第4章 掲載を勝ち取るマスコミへのアプローチ
第5章 天国と地獄が交錯するプレス発表会
第6章 今だから言える企業広報の裏話
全83エピソード(350ページ)
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