ソニー、そして日本オーディオ界のレジェンド「かないまる」こと金井隆さんが2022年7月2日にお亡くなりになりました。筆者の遠藤眞代さんにとっては、一人前の広報になるためお手本にしていた方だったそうです。新型コロナウイルス禍が落ち着いたら、インタビューさせてほしいとお願いもしていました。追悼の思いも込めてお届けします。(編集部)
AV専門誌で10年連続ベストバイの立役者
ソニーの「かないまる」と言えば、AV業界やデジタル系メディアの記者さんにとってはおなじみの方だったかもしれませんね。その金井隆さんをご存じない方のために、まず少しだけプロフィルを紹介しましょう。
金井さんは既にソニーを退職されていましたが、ホームシアターなどで使用するAVアンプのエンジニアとして業界では大変有名な方でした。ステレオサウンド社(東京・世田谷)のAV専門誌「HiVi」が毎年行っていた優れた商品を表彰する企画で、ソニーのAVアンプは1997年から10年連続で「冬のベストバイ」(最優秀賞です)を獲得しました。その立役者こそが金井さんでした。
オーディオのエンジニアとして最高クラスの方であることは間違いなく、社内外問わず尊敬されていたのではないでしょうか。近年までソニーの音が出る製品で高音質をうたっているものは、裏で金井さんがアドバイスされていたケースも少なくないと聞いています。
オーディオエンジニアとしての功績については、私に語る資格などはありません。そこで今回は、広報の立場から金井さんを見続けて“神”だと感じた取材対応について紹介させていただきます。
取材対応者は大きく3タイプ
まず、企業側の取材対応者について知っていただくため、3つのタイプに分けてみました。
(1)忠実タイプ:広報がつくった型(Q&Aやストーリー)を忠実にこなしていくタイプ
(2)話し上手タイプ:自身の型やストーリーが出来上がっていて、それに沿って取材対応するタイプ
(3)独立タイプ:インタビュアーによって話す内容や言葉遣いをカスタマイズするタイプ
ちなみに、金井さんは3つ目の「独立タイプ」でした。一概に言えませんが、上から下に行くほど取材対応の習熟度が高く、インタビュアーが面白いと感じる話を提供できることが多くなります。では、それぞれもう少し詳しく見ていきましょう。
「忠実タイプ」は初めてメディアの取材を受ける人やあまり慣れていない人。取材慣れしていたとしても、ここ一番のミスが許されない取材の場合も、このタイプになることがあります。私が言うのも気が引けますが、広報がつくり込んだストーリーに忠実すぎると、味気ない取材になりがちです。取材対応者は場数を踏みながら、広報からのフィードバックなどを基に、メディアに対する基本スタイルを習得し、ステップアップしていくのが定石です。
「話し上手タイプ」は、広報担当者として最もやりやすいタイプでしょう。広報がつくった型をカスタマイズして、自分の言葉(スタイル)で話せる人です。毎回話すことにブレがないので、安定した情報の露出が図れます。さらにこのタイプは、たとえ話やエピソードを数多く持ち合わせています。インタビュアーのスキルが高いと、ついつい調子が出てしゃべり過ぎてしまうこともあるので、完全に広報が手放しになるわけではありません。
広報が手助けできるのはここまでです。さらに上の高みを目指し、次のステップである「独立タイプ」の取材対応者になってもらうには、広報のサポートだけでは困難です。
取材対応者の頂点ともいえる「独立タイプ」は、創業者などに多いタイプです。あふれ出るパッションから言葉を紡ぎ出します。頭の中は伝えたい気持ちでいっぱい。発言が予測不可能なこともよくあり、広報がヤキモキしてしまいます。独立タイプはそもそも希少性が高いので、出会ったことのない広報の方もいるでしょう。
独立タイプをさらに細かく分けると、「感性派」と「緻密派」が存在します。金井さんは、緻密でありながら感性も高いレベルで持ち合わせている方でした。私は取材対応者の“究極の姿”が金井さんだったと思います。その理由を、これから説明しましょう。
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