会社の偉い人が自分の人脈を通じて、メディアに記事を書いてもらうよう働きかけることがあります。本人は良かれと思ってのことですが、広報にとっては“ありがた迷惑”となることも。むしろこれは「やってはいけない」行為なのです。

「またゴルフでも行きましょう。それで今度うちで新製品を発表するんだけど、記事で取り上げてもらえないかなあ……」。こういう依頼は慎んでいただきたいものです ※写真はイメージ(画像提供:polkadot_photo/Shutterstock.com)
「またゴルフでも行きましょう。それで今度うちで新製品を発表するんだけど、記事で取り上げてもらえないかなあ……」。こういう依頼は慎んでいただきたいものです ※写真はイメージ(画像提供:polkadot_photo/Shutterstock.com)

 「どうもうちの広報はマスコミとのリレーションが弱い」――。経営者の方、あるいは広報チームを傘下に持つマーケティングのCMO(最高マーケティング責任者)の方なら、こんな思いが一度ならず頭をよぎったことがあるのではないでしょうか。

 経営者やCMOクラスともなれば人脈も豊富です。マスコミ関係企業の幹部も多く知っていることでしょう。そこで、良かれと思って「〇〇社の偉い人を知っているから、私から記事を書いてもらうよう頼んでおいたよ」ということもしばしばあるようです。しかし、これは時として「やってはいけない」ことになる場合があります。どうしてでしょうか。

 ここでマスコミの組織について簡単に解説します。マスコミは新聞であれ、テレビであれ、ネットニュースであれ、「編集」と「広告」に大別された組織になっています。ざっくり言うと編集は記事や番組コンテンツをつくる部署であり、広告はずばり営業で、企業などから広告を獲得するプロフィットセンターとなります。

 雑誌の場合、編集のトップがご存じ「編集長」ですが、その上には編集と広告を統括している「発行人」がいます。発行人はその媒体の損益の責任を持っているというわけです。

 先に挙げた経営幹部やCMOが「よく知っている」という人は、大体この発行人か、さらに上のレベルの方であることが多いように思います。通常の企業の交渉であれば、相手が上の人であればあるほど効果があるかと思いますが、ことマスコミについては以下の2つの点が異なり、それが時に思いもよらぬ結果を招きます。

発行人の「返し技」に注意!

 1つは、発行人以上の立場の方であれば、こちらの「お願い」をかなえてあげる方法として「広告を打つ」という手段を持っているということです。広報まで巻き込んで何回か打ち合わせをした結果、メディアから出てきた「ご提案」は結局タイアップ広告の企画だった、なんてこともあるかと思います。しかしこれは発行人の仕事としては極めてまっとうなオファーといえます。

 言うことを聞かない編集部をすっ飛ばしてトップアプローチをしていたつもりが、逆に向こうにトップアプローチをかけられてしまったというわけです。柔道の篠原信一選手が2000年シドニーオリンピック決勝で放った「内股すかし」と同じですね。篠原選手は誤審で金メダルを逃しましたが、この返し技はなかなか手ごわいので注意したいところです。

 もう1つは、このコラムでも書いたことがあると思いますが、編集部というのは時には上位のマネジメントの指示であっても突っぱねるだけの独立した権限を持っている点です。これを「編集権」といいます。

 例えば、Yahoo!ニュースという非常に影響力の強い媒体があります。ヤフーはソフトバンクグループ系列ですから、さぞかしソフトバンクグループに有利な記事ばかり載せるかというと、そうではありません。あくまで記事の公平性を維持するために、ここの編集権は不可侵となっていると聞きます。編集権を尊重することで、我々は安心してそのニュースを信用でき、ひいてはその媒体の価値を高めているわけです。

 トップダウンで「おい編集部、頼むよ」というのは、このメディアの根幹を支える編集権の干犯に当たる場合もあります。幹部自ら媒体の価値を下げることに加担することになりますから、ちょっと勝算は低いというわけです。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

第1章 広報しか知らないマスコミの素顔
第2章 取材対応こそ危機管理の要
第3章 経営者が知っておくべきマスコミ対応の落とし穴
第4章 掲載を勝ち取るマスコミへのアプローチ
第5章 天国と地獄が交錯するプレス発表会
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全83エピソード(350ページ)
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