自分が広報を担当した製品やサービスが、その後大ヒットして世に長く語り継がれるようになることもあるでしょう。つまり広報は企業の「歴史づくり」の一翼を担っているのです。一時の失敗や苦難、苦悩も、時がたてば学びのある印象的なエピソードになることもあります。

ソニーの歴史の1ページを飾った「ウォークマン」。筆者の遠藤眞代氏もウォークマンを担当した広報の一人 (写真提供:Ned Snowman/Shutterstock.com)
ソニーの歴史の1ページを飾った「ウォークマン」。筆者の遠藤眞代氏もウォークマンを担当した広報の一人 (写真提供:Ned Snowman/Shutterstock.com)

歴史の一端を任されているという責任感

 以前、「ソニー歴史資料館」という施設が、東京の品川、五反田、大崎を結んだ三角形のちょうど中央付近にありました。そこには「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」で知られる、東京通信工業(現ソニーグループ)の設立趣意書の現物をはじめ、社員が創業者の井深大さんに贈った「金のモルモット像」のレプリカや数々のヒット商品の展示に加え、井深さんや共同創業者の盛田昭夫さんの肉声メッセージを聞くことができる場所でした。

 とても好きな場所だったこともあり、新任の記者さんに同行して、ソニースピリットを知っていただくという名目で足しげく通っていました。何度も訪れていたにもかかわらず、行くたびに井深さんや盛田さんの肉声メッセージを聞いて、「この会社に入って良かった……」と目頭を熱くしたものです(本当の話ですよ)。

 そこに私が過去に担当した商品も置かれるようになり、自分自身が広報として携わったことが、会社の1ページとして刻まれることに責任の重さをひしひしと感じるようになりました。

出足つまずいた「ウォークマン」

 当時、気づいたことがもう1つありました。「成功者」と呼ばれるような経営者の失敗や苦悩は、やがて美談や武勇伝、時には笑い話として語られます。時がたつと人の評価が劇的に変わる場合もあるということです。思いつくエピソードはいくつもあるのですが、有名な話を例に説明してみたいと思います。

 「ウォークマン」の広報担当だった頃、メディアから初号機に関する問い合わせをよく受けました。特集だったり、クイズ番組で取り上げたりする目的が多かったような記憶があります。

 ウォークマン初号機の発表会は、1979年6月22日に行われました。詳細は割愛しますが、代々木公園で記者一人ひとりに実機を体験していただく形式だったそうです。ウォークマンを装着しながらジョギングするという、今では当たり前の使用シーンなどもデモンストレーションした画期的な発表会だったようです。しかし、新聞の反応は芳しくありませんでした。

 製品発売は79年7月1日でしたが、初月の7月の販売数はわずか3000台だったそうです。その後、販促活動を積極的に行い、初回生産分の3万台は2カ月目の8月には売り切れ。それからは生産が追いつかなくなったそうです。

 と、こんなエピソードをその場に居合わせたかのように幾度となく話しているうちに、ふと自分自身がその当時の広報だったら、どんな気持ちになっただろうかと頭をよぎりました。

 ウォークマンの発売については賛否両論あったそうですから、発売直後の心中は穏やかではなかったはずです。胸がつかえて、逃げ出したい気分になったに違いありません。ですが、2カ月たった8月の終わりごろには、一転、うきうきしながら記者の皆さんに“売り切れ”を報告したことでしょう。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2022年12月19日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

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