このコラムを執筆している鈴木正義氏の著書『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』からとっておきのエピソードを紹介。今回取り上げたのは「ヤマタノオロチ伝説」です。これがプレスリリースの書き方をおさらいするのに、もってこいの題材なのです。
そのプレスリリース、誰が読むの?
広報という仕事をそれなりに長くやっていますと、時折「プレスリリースをどう書いたらいいのか」と聞かれることがあります。広報経験のないマーケティング担当者などがやってしまいがちな間違いが、物語のように時間軸に沿って起承転結をつけた書き方です。これは一般的には「上手な文章」とされていますが、プレスリリースではこれはあまりおすすめできません。
そもそもプレスリリースは一般の人に読んでもらうための文章ではありません。現在はホームページなどでも公開するので勘違いする人もいるようですが、本来はメディア関係の人が記事を書いたり、番組を制作したりするための資料で、100%その目的のために最適化された文章を目指すべきだと思います。
そこで、通常の物語とプレスリリースがどのように違うのかについて、『古事記』に出てくる「スサノオのヤマタノオロチ退治」の話を題材に解説しましょう。
まず、これがどんな話か説明すると、スサノオが旅の途中で、老夫婦と美しい娘が泣いているところに出くわします。なぜ泣いているのか聞くと、この地域には毎年ヤマタノオロチという恐ろしい大蛇がやって来て、村の娘をさらっていってしまう。もうこの村には自分たちの娘しかおらず、もうじきオロチがやって来るので恐ろしくて泣いている、ということでした。
そこでスサノオは、老夫婦に何度も繰り返し醸した強烈に強い酒を造らせ、これを8つの壺(つぼ)に入れさせます。そこへ8つの頭を持つオロチがやって来るのですが、酒の匂いにつられ、それぞれの頭が壺に入った強い酒を飲み、酔い潰れてしまいます。その隙をついてスサノオはオロチをスパスパッと切って退治。見事オロチをやっつけたスサノオは娘に求婚し、老夫婦は喜んでこれに応じます。めでたしめでたし……とまあこんな話です。
ちなみにスサノオですが、お姉さんは岩戸隠れで有名な太陽神アマテラスです。兄(性別不明の神様ですが、ここでは男性神であるとします)のツクヨミは月の神、ご両親は国造り神話で有名なイザナギとイザナミというエリート一家です。どうしたことかスサノオだけめちゃくちゃ豪快かつ型破りで、「海の神になりなさい」という結構なオファーを拒否。高天原(天界ですね)の最高神である姉の家でさんざん悪さをして追放され、それで出雲にやって来たところからこの物語は始まります。
報道関係者各位
出雲の国
スサノオさん、ヤマタノオロチを退治
出雲の国は、このたびスサノオさん(高天原出身、男性、年齢不詳)が、長年我が国に災害をもたらしていた害獣ヤマタノオロチ(※注1)を退治したことを発表します。
出雲地方はこれまで「オロチに襲われる街ランキング」で常に全国1位という不名誉な記録があり、若い世代から敬遠され、宅地造成や企業誘致などの妨げとなっていました。今回のオロチ退治により、今後は若い娘を持つ世帯でも安心して住める明るい街としてイメージを回復し、行政としても各種の経済対策を加速させていきます。
出雲の国では今回のスサノオさんのお手柄に対し、警察庁長官による感謝状の他、出雲の国名誉市民・市民栄誉賞についても検討していきます。なお、オロチの尻尾を切る際に「草薙の剣」が出てきましたので、出雲の国ではこれを宝剣として観光資源化し、来年度「3Dオロチ記念館(仮称)」建設の予算化を進めることにしました。
〈娘の母親テナヅチさんのコメント〉
「もう私たちの村には若い娘は1人しか残っておらず、怖くて泣いていたところを、スサノオさんが親切に助けてくださいました。もともと出雲は暮らしやすい街なので、これからは他の地域からも安心して遊びに来てほしいです」
頭が8つ、尾が8つある大蛇で、毎年出雲地方にやって来ては若い娘をさらってゆく害獣として知られていました。山谷8つ分にわたるほどの大きな体で、その表面にはコケや杉が生えているほどの巨体であり、これまでも出雲の国行政でも駆除に手を焼いていました。
【参考1】スサノオさんによる退治法(※危険なので絶対にまねをしないでください)
スサノオさんは、何度も醸してアルコール度数を高めた酒を壺に入れ、そこにヤマタノオロチをおびき寄せ、泥酔させることに成功。その間にオロチを切り刻み、見事、退治しました。なお、この準備作業には地元のアシナヅチ・テナヅチ夫婦が協力しています。
【参考2】スサノオさんについて
高天原出身。姉は太陽神のアマテラス、兄のツクヨミは月の神で、両親は国造り神話で有名なイザナギ、イザナミという格式ある一家の出身。
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