韓国ドラマにはメディア業界を扱った作品もあります。その中から今回は「ピノキオ」という放送ジャーナリズムを題材にしたドラマを紹介します。何を伝えるか、どう伝えるかはメディアと広報の共通テーマと言えます。今回はそこにスポットを当ててみましょう。
クリスマス、お正月まであと少し。常にネタ切れで毎回書くのが苦しいのですが、読者の皆様のおかげでどうにか2021年も続けることができました。ありがとうございます。
何度か書いておりますが、新型コロナウイルス禍でおうち時間が増え、韓国ドラマにはまってしまい、週末は一歩も外へ出ずにドラマ漬けということも少なくありません。今まで見たドラマの数は、そろそろ100本に到達しそうな勢いです。
そんなこともあってか、知人からお薦めの韓国ドラマを聞かれることがあります。一般的に面白いとされている作品はネットなどで情報が拾えますので、私からは広報目線でお薦めのドラマを紹介させていただきます。年末年始に時間の余裕ができたら、チェックしてみてください。
見たいニュースと見るべきニュース
今回、紹介するのはテレビ報道をテーマにした「ピノキオ」というドラマです。童話のピノキオは嘘をつくと鼻が伸びますが、放送記者で主人公の1人であるチェ・イナは嘘をつくとしゃっくりが出る「ピノキオ症候群」という設定です。ピノキオ症候群という疾患は実際には存在しませんが、記者として事実を話しているかどうかを視聴者に伝えるための演出として使われています。
このドラマの見どころは、イナが勤めるテレビ局MSCと、もう1人の主人公で恋人のチェ・ダルポが勤めるライバル局YGNの報道に対する方向性の違いや視聴率争いなどです。警察署内の記者クラブに配属された2人が、他の記者と競ってネタ集めをするシーンは、広報が記者の立場を理解するのに勉強になります。
ドラマ内でこんなエピソードがありました。焼肉屋で鉢合わせたMSCとYGNの報道スタッフたち。その場にいたMSC報道局部長兼アンカーのソン・チャオクが、自分の後ろめたい過去を蒸し返されるのを避けるため「過去のニュースにこだわらず、国民が見たいニュースを提供すべきだ」と言います。それに対してイナは「見たいニュースと見るべきニュースの基準」について問題提起し、チャオクにくってかかりました。「視聴者に勝手な基準を押しつけるのは、記者のすることじゃない」とかわすチャオク。
このやり取りを聞いていたYGNのダルポが先輩記者に対し、「先輩に伝えることがありました。いい知らせと悪い知らせです」と話を始めます。それぞれ以下のような内容でした。
(1)文化部から韓流スターのコンサートチケットを預かった。
(2)健康診断で先輩がすい臓がんであることが分かった。
(1)を聞いて大喜びで興奮し、すぐさま(2)を聞かされて取り乱す先輩記者。(2)について黙っていたことを問い詰められると、「見たいニュースじゃないからです」と答えるダルポ。もちろんこれはダルポの冗談ですが、言うまでもなく(1)は視聴者が見たいニュース、そして(2)は視聴者が見るべきニュースです。彼が問いたかったのは、見たいニュースと見るべきニュースの優劣。そしてここでは、暗にチャオクや自分の上司に対し「見たいニュースを優先して、見るべきニュースに蓋をすべきではない」と言いたかったのです。
このドラマは2014年に放送開始された作品ですが、報道に関わる人たちの問題意識は現在も変わっていないのではないでしょうか。両方大切なニュースですが、優先順位をつけるとしたらどちらが上か。昨今の視聴者や読者に対しては、(1)が先に届けられるかもしれません。
ここで広報が意識しておかなければならないのは、そもそも発信する情報が(1)か(2)のどちらかに当てはまっているのかという点です。メディアは視聴者が「知るべきだ」「知りたいはずだ」と考えている情報に価値があると考えます。視聴者が知りたい情報は視聴者に「メリット」があるような情報。視聴者が知るべき情報は「社会的に意義」があるような情報です。視聴率やアクセス数など数字の取れる(1)と、ジャーナリズムという観点での(2)。広報としては(1)と(2)、両方の要素を兼ね備えた情報を提供したいものです。
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