コンシューマー製品を扱う企業の広報にとって、年末商戦は一大イベント。そこに向けて、9月ごろから新製品の発表が続きます。当然、記事掲載を巡る広報同士の戦いも激しくなり「ニュースの大渋滞」が発生します。まさに今がそうです。慌ただしい広報の舞台裏はどうなっているのでしょうか。
事前の情報提供で「渋滞回避」
家電などのコンシューマー製品の場合、1年に3回大きな商戦期があります。1つは年度末のいわゆる新生活シーズン。後の2つは夏と冬のボーナス商戦となります。このため電機業界では「春モデル」「夏モデル」「秋冬モデル」とそれぞれの商戦期に合わせて新製品が投入され、ここが製品担当広報としては活躍のしどころです。中でも年末商戦は、年間で最大の盛り上がりとなります。
ちなみに年末といっても日本の場合、冬のボーナスが12月の初旬に出ますので、製品の発表は早いものは9月、遅くとも11月までには行われます。この記事が公開される10月上旬は、まさに秋冬の新製品発表のピーク時期となっているでしょう。
消費者の立場からすれば、どんな新製品が出るのか一通り目を通してから買い物がしたいので、情報を求めて各種メディアの記事を読みあさります。従って記事を読んでもらうため、メディアとしては11月には記事を出しておく必要があり、そこをめがけて情報を出す広報は、さらに早い9~10月に発表を集中させることになります。
筆者の場合、担当製品はパソコンです。同じパソコン分野の強力なライバルの間をかき分けて、マスコミにネタを売り込まなければならないのは当然です。さらに頭が痛いのは、家電やデジタルカメラ、オーディオ機器にゲームと、異なる業界からも魅力的な新製品が発表され、同じメディアに対して一斉にアプローチをかけてくる点です。書き手であるマスコミ側も時間がいよいよなくなって、「ニュースの大渋滞」が起こるのがこの年末商戦なのです。
年末の帰省ラッシュの場合、深夜に出発するなど高速道路の渋滞を回避する方法があります。ニュースでも、これに似た渋滞回避の方法が広報にはあります。といっても、本当の発表タイミングは簡単にはずらせません。そこで信頼できるメディアとの間に守秘義務の約束をして事前に新製品の情報を提供し、取材を済ませておいてもらうのです。こうすることでメディアは発表当日に向けて、記事の執筆や写真撮影などの準備ができるというわけです。特に編集に時間のかかる雑誌の場合、商戦期に記事をタイムリーに掲載するため、この事前取材は欠かせないものとなっています。
ただ、そんな事前取材ですら渋滞を起こすことがあります。例えば、月刊誌の場合は写真撮影の日程が決まっていて、この日この時間にスタジオに新製品を持ってきてほしい、という依頼を受けることがあります。いざ行ってみると、明らかにどこかのメーカーの広報と思しき風体の人が、何やら大事そうに箱を抱えてスタジオの前にスタンバイしている、なんていうこともあります。ここでお互い目も合わさず、相手が存在しないかのように振る舞うのが広報業界のたしなみです。これから広報を目指そうという人は、ぜひ覚えておいてください。
実は先日も、とある会社との共同発表の事前準備でその会社を訪ねた際、こともあろうか日経クロストレンドの前編集長のAさんとロビーで鉢合わせしてしまいました。さすがに「これはまずい」と思ったのですが、どうやらAさんも何かの取材だったらしく、お互い軽くあいさつを交わした程度で、突撃取材を受けることはありませんでした。一瞬だけAさんがシルクハットをかぶった紳士に見えました。
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