広報にとって、企業の意図を正確にメディアの記者に伝えるのは大変なことです。メディア側の狙いを、社内の人間に完璧に理解してもらうのもまたしかり。間に立つ広報には、高い「翻訳スキル」が求められます。しかし、外国語と異なり便利な「辞書」など存在しないのが悩ましい……。

扱う分野によって専門用語は違うし、記者の理解度もバラバラ。同じように理解してもらうにはどう“翻訳”すればいいのか ※写真はイメージ(写真:Syda Productions/Shutterstock.com)
扱う分野によって専門用語は違うし、記者の理解度もバラバラ。同じように理解してもらうにはどう“翻訳”すればいいのか ※写真はイメージ(写真:Syda Productions/Shutterstock.com)

「HDML」か「HDMI」か

 翻訳アプリや関連ツールが充実してきました。日本語から外国語に、また外国語から日本語に翻訳する際、瞬時に変換できるようになって本当に便利な時代になりました。広報の仕事も、別の意味で翻訳/意訳する能力が必要ではないかと思います。

 同じ言語を使っていても、企業とメディアがお互いの立場を完璧に理解し合ってコミュニケーションがとれているケースはまれです。その間に入って、それぞれの立場や知識、見ている方向が異なることに配慮し、補足したり例を挙げたりしながら、円滑なコミュニケーションをサポートするのが「広報的翻訳スキル」です(関連記事:「メディアは本当に意地悪? 都合の悪い記事に抱く勘違いの理由」)。

 辞書でもあればいいのですが、メディアも企業側も十人十色で組み合わせは無限ですし、相性もあります。PDCAを回しながら、少しずつ広報的翻訳スキルが上達してきたような気もしますが、残念ながらしくじったと反省することもたくさんあります。この翻訳業務は、まだAI(人工知能)に任せるわけにはいかない難しい分野だと思います。

 例えば、専門用語や難しい表現を簡単な言葉で言い換える場合です。新聞の記事が入試にも引用されることからも分かるように、メディアに掲載されている記事は学生でも理解できるような表現や文言が使われています。一方で、その業界では当たり前の事象や用語が、一般的には当たり前ではないことはよくあります。

 たまたま、ネット上でこんなやり取りを見つけました。

 「パソコンの映像をテレビに映し出したいけれどどうしたらいいのか?」という質問に、すぐに「HDMLを使えばできるよ」といった回答が入りました。それを見た他の方が「HDMIだよ」と修正して一件落着。

 HDMIは20年近く前にできた、デジタル機器同士をつなぐ通信規格で、映像や音声のデジタル信号を1本のケーブルで送ることができます。私は長くエレクトロニクス業界にいたこともあり、かなりなじみがあります。それだけに「HDML」と見た瞬間、まだ浸透していないのか、とショックを受けました。私の勝手な想像ですが、ホームページなどを作るときの言語「HTML」と「HDMI」が一瞬混じってしまったのかもしれませんね。確かに分かりづらい。

 このような特定の業界では当たり前でも、一般的にあまり知られていないと思われるようなことは、文中で補足したり、注釈を入れたりしながら翻訳するのがいいでしょう。

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

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