メディアに記事化してもらうには、広報は分かりやすく、なおかつ面白く情報を提供したいところ。そこで有効なのは「数字」の活用ですが、そのまま伝えてもうまく響かないこともあります。何か別の物差しを用意するなどして、その「すごさ」を見える化する工夫が腕の見せどころです。
「良い広報ネタ」とは?
突然ですが、「良い広報ネタとは?」と問われた場合、私なら「信じられないけれど本当のこと」と答えます。当然ながら、そのためには信じるに足る情報を添える必要がどうしてもあります。
1つ分かりやすい悪例を出します。私の釣り仲間から先日「デカい魚を釣り損ねた」という連絡がありました。釣り人の自慢話がどれほど怪しいものかはご想像いただけるかと思います。悪い予感を胸に、どのくらいですかと聞くとこう返ってきました。
「ちょっとした潜水艦くらい」
そもそも「ちょっとした潜水艦」というのは古今東西聞いたことのない表現ですが、察するに「潜水艦」といったらいかにもウソなので、とっさに「ちょっとした」と付けることで、話に信ぴょう性を持たせたつもりだったようです。しかし、それによってむしろ、うさんくささが際立つ結果になったように思います。
一方で、信ぴょう性のある記録として数字で残したいという人のために、釣り船には必ず物差しが用意されています。いわばホラ吹きぞろいの釣り人向けに、自慢話の「見える化サービス」というわけです。
今回はこの「信じられないくらいすごいもの」を広報する上で、数字を駆使した広報のテクニックについて書いてみたいと思います。
情緒的な表現は、伝える熱量を減衰させる
数字を使った広報の一番のお手本は、実はスポーツの広報です。スポーツの楽しさは、何と言ってもテレビやスタジアムで息詰まる接戦や超人的なプレーを観戦することです。しかしどんなに感動的な試合も、これを人に伝えるとなると「すごい」「大きい」「速かった」のような主観的な表現に終始してしまってうまく伝わりません。
例えばロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手のすごさを語る上で、数字を一切使わないとどうなるでしょう。
背が高い。打つのがうまい。その上投げるのもうまい。
何となく分かりますが、恐らく記者としてこんな記事を書いたら即座にデスクから「このノッポのお兄さんの何がそんなにすごいわけ?」と原稿をつき返されてしまうでしょう。つまり「伝えにくいし、書きにくいネタ」になってしまいます。
元ネタ→広報→記者→編集部→読者という過程は、いわば壮大な伝言ゲームをやっているわけで、その途中でどうしても伝えたい、という熱量が減衰してしまうとうまくいかなくなります。そして、主観的、情緒的な表現ほど、途中で減衰させてしまう可能性が高いように思います。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー

『もし幕末に広報がいたら 「大政奉還」のプレスリリース書いてみた』
広報・PR関係者に大反響! 重版4刷
連載「風雲! 広報の日常と非日常」でおなじみの現役広報パーソン・鈴木正義氏による初の著書。広報・PR関係者を中心にSNSでも大きな話題に!「プレスリリース」を武器に誰もが知る日本の歴史的大事件を報道発表するとこうなった! 情報を適切に発信・拡散する広報テクニックが楽しく学べるのはもちろん、日本史の新しい側面にも光を当てた抱腹絶倒の42エピソード。監修者には歴史コメンテーターで東進ハイスクールのカリスマ日本史講師として知られる金谷俊一郎氏を迎え、単なるフィクションに終わらせない歴史本としても説得力のある内容で構成しました。
あの時代にこんなスゴ腕の広報がいたら、きっと日本の歴史は変わっていたに違いない……。
■ Amazonで購入する