マスコミの質問にはどう答えるか?

 マスコミに敵を作らないことは広報として大切です。その最良の方法は、迅速かつ公平な対応です。この場合、インタビューなどの個別取材よりも緊急の記者会見がよいと思います。また、幕府の一方的な発信にならないように、協力的な公家の方の同席も事前にアレンジしておきたいところです。

 この会見のQ&A作りは相当重要です。特に「聞かれては困る質問ほど必ず聞かれる」と思って準備しておく必要があります。幾つか例を挙げてみます。

Q:将軍は辞職しないのか?

A:はい、辞職は考えていません。朝廷のご威光は絶大ですが、200年以上の政治運営の知識と経験を持つ徳川家の代表である将軍は朝廷を補佐する適任者と考えます。(同席のお公家様からも歓迎のコメントをいただく)

Q:政治運営ではなく、既得権益を手放したくないのでは?

A:いいえ。徳川家は朝廷にお仕えする諸侯の一つであり、あくまで裏方として諸侯のとりまとめをする役回りです。その上で運営にかかわるスタッフ、必要経費などを考慮し、現有の年貢、領地の維持が必要と判断しました。

Q:薩摩と長州が武力に訴えてきた場合、どう対抗するのか?

A:仮説に基づく質問にはお答えしません。大政奉還の奏上が受理されれば、幕府は正式に承認された立場として分け隔てなく諸侯のご意見に耳を傾けます。

 こんな感じでしょうか。2番目の回答はさすがに無理がありますね。最後の回答は、武力衝突という意地悪な質問に対し、議論の軸を切り替え、諸侯の意見を聞くというソフトイメージで回答します。

 しかしながら、実際の歴史では大政奉還された同じ日、倒幕派は公家である岩倉具視により討幕の密勅をもらい、これを根拠に薩長による倒幕運動は加速していきます。また、大政奉還で幕府が狙っていた朝廷によるオーソライズというイメージ戦略も、後に倒幕派が逆に朝廷オーソライズのシンボルとして「錦の御旗」を掲げ、幕府は完全に朝敵にされてしまいます。錦の御旗については「宮さん宮さん」という歌まで作られ、大衆にも広く流行したようです。

 こうしてみると倒幕派(新政府)のほうがコミュニケーションのスピードや手法でも幕府を上回っていたように思えます。明治維新という歴史の大転換期、大政奉還はコミュニケーション戦略の大ばくちだったわけですが、その巧拙がもしかすると歴史を動かしたと言えるかもしれません。現代の広報でも参考にしたいですね。