「これを記事にしてもらえなくて何が広報か!」と言われた方も多いのでは。しかし広報の視点で判断すると掲載は難しいな、と思うこともしばしば。事業部門の人たちが「このネタはいける」と盛り上がっていたら厄介です。そこはいったん「KY(空気が読めない)力」で受け流し、時機をうかがうのも大切です。

盛り上がっているところ申し訳ありません。それじゃニュースになりませんよ ※画像はイメージ(画像提供:Brazhyk/Shutterstock.com)
盛り上がっているところ申し訳ありません。それじゃニュースになりませんよ ※画像はイメージ(画像提供:Brazhyk/Shutterstock.com)

功を焦らず、まずは「KY」に徹すること

 「記事になりませんじゃなく、記事にして見せますというのが広報の仕事でしょ?」

 先日、知り合いの広報担当からメッセージをもらいました。詳細は聞いていませんが、とある話題をマスコミに打ち出してもらえないかという相談を、事業部門からもちかけられたそうです。しかし、お世辞にも記事になるような話題ではなかったとか。「これじゃ記事になりません」と伝えたところ、冒頭の言葉を言われたそうです。要は広報やる気ないんじゃないの、と疑われたわけです。

 我が日本国に会社が幾つあって、広報担当者という人が何人いるのか知りませんが、恐らくそのすべての人がこれに似たような悔しい経験をしているのではないでしょうか。当然ながら筆者も同様の重圧下に身を置いていますが、先日比較的うまく切り抜けられた出来事があったので、今回はその事例をお話しします。

 始まりは今から半年前の上司の一言です。

上司:「レノボはこれからサービスに力を入れる。これを広報してくれたまえ」

 しかし実際のところその時点では「サービスに注力すべきだ」という事情が会社にあるのみで、実績や外から見える取り組みはまだ十分に整っていませんでした。この時点では、いうなれば「オレはビッグになってやる」と言いながらゲーム三昧の日々を送っている中学生と発言の信ぴょう性に差はなかったのです。

広報:「サービスに力を入れている、と言えるファクトはないんですか? それがないとニュースになりませんよ」

 このときはしれっとこう言って上司の提案を受け流しました。素直に上司の言うこと(要するに業務命令)を聞かずに、できない理由を並べ立てるのは、通常であればあまりいい態度とは言えません。しかし広報にはこの「KY力」とでも呼ぶものが欠かせないスキルではないかと思います。内心(こりゃムリだろ)と思いながらも、渋々マスコミへ売り込みに行ったところで、先方の記者から却下され、何も得をしないばかりか「あそこの広報、うちの紙面でそういうネタやらないって分かってないな」というログが残るだけで、マイナスの結果しか出ません。

 とはいえ、恐らく上司には内心(うちの広報使えないなー)と思われているわけで、この不名誉は何とかそそぎたいところです。

 結果を言いますと、約6カ月後に日経電子版をはじめ、マスコミ各社に「レノボサービスを強化」という見出しが躍りました。あのとき「ニュースになりませんよ」と言った同じネタです。一体この間に何があったのでしょうか。

 実はあるとき、社内会議にいつものようにボンヤリ出席していると、お客様の要望に応じて製品をカスタマイズして出荷するサービスセンターを開設する、という話が聞こえてきました。そこで一気に眠気が吹き飛び、「このセンターのオープンをフックにすれば、サービスを強化したというファクトとして使えるな」と直感し、ストーリーが頭の中で組み立てられました。そして2021年2月、間違いなくそのセンターがオープンするや、事業説明会という場でお披露目したわけです。

 ニュースは新鮮なうちがいいので、これからやることを広報するというのは定石です。しかし、まだできるかできないか分からないネタを焦って出すより、少し寝かせて「実績を見せる」のも非常に効果的なタイミング、という例になるかと思います。

 ちなみに記事を書いた記者からは、「あのセンターを開設、というファクトがなかったら、何の根拠もない一方的な主張をいちいちニュースにしてられるか、とデスクに却下されていたと思いますよ。多いんですよね、そういう何がやりたいのか具体性のない発表」と言われました。もし半年前に手ぶらであのネタを売り込んでいたら、恐らく玉砕していただろうということですね。

自分に対し批判的でいることも広報のスキル

 大手メディアの場合、記者本人が書きたいと思っても、その先にはより厳しくニュース原稿にダメ出しをする「デスク」という無敵のゴールキーパーみたいな人が待ち受けています。ここを突破しないと記事にはならないわけですから、広報がネタを吟味する際もこのデスクの視点くらい厳しく自社のネタを精査し、ダメ出しもいとわない気概で臨みたいものです。

 こう書くと、いやそれくらいの判断はつけられるよ、と思われるかもしれませんが、自分自身に対し批判的になるというのは案外できないものです。実は上司のプレッシャーよりも厄介なのが、社内が楽しく盛り上がっているときです。私たちは会社という集団に属していると、つい同質な価値観に陥りがちです。特に何かいいアイデアが出てチーム全体が盛り上がっているときほど、そのテンションのまま「これはマスコミも注目するに違いない」という思い込みをしがちなように思います。しかし広報はこれに同化してしまってはダメなのです。

 私が以前にある経済誌の記者の方から言われた一言があります。

 「会社の事情も分かるんですが、マスコミの事情も分かってもらいたい。広報さんにはそういう中立的な立場になってもらいたいんです」

 社外の視点を会社の判断に持ち込む役目を広報は担っている、ということです。広報部門を支配下にもつ経営幹部の方なら、広報のKYなダメ出しを「腰が引けている」と思わず、どういう点からそう思っているのかまずは聞いてもらいたいです。自分たちの集団が偏ったものの見方になっていないか、案外広報の意見から分かることがあるかもしれません。

 一方、我々広報も慎重になってばかりではなく、「今ならこういうネタが受けますよ」と積極的な情報発信を促すようなポジティブさも併せもっておきたいものです。

(画像提供/Shutterstock.com)

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『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』

『マスコミ対策の舞台裏 役員からの電話で起こされた朝』
2021年12月28日発行
 連載「風雲! 広報の日常と非日常」が本になりました。これまで3年半以上に及ぶ、約150本のコラムの中から、「マスコミ対策」に焦点を絞って再編集。企業や個人までも手軽に情報発信できるSNSがもてはやされる今日ですが、“バズった”記事の出どころをたどると、マスコミの記事や番組であることが少なくありません。だからこそ、企業は「情報の源流」でもあるメディアへの対策を十分に練り、正しい情報を伝え、記事や番組として発信してもらう重要性がこれまで以上に高まっていると言えます。本書は連載でおなじみの現役広報パーソンである二人の著者(鈴木正義氏、遠藤眞代氏)が、20年以上にわたる記者や編集者との生々しい駆け引き、社内でのあつれき、成功談・失敗談から導き出された「記事や番組に採用されるためのテクニック」「メディアとの関係構築法」「危機感管理術」などを、当時の現場の様子や本音を交えながらリアルに書きつづっています。読み物としても楽しめる中身の濃い1冊に仕上がっています。

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