情報には送り手と受け手がいます。立場が違うので、同じ情報でも扱い方や受け止め方が異なるのは当然です。情報の発信側である場合が多い企業広報ですが、その情報に不安や疑念を抱く、受け手の視点を念頭に置いておくことも大切です。

「100点取ってきたよ」に母親の反応は? ※画像はイメージ(画像提供:hanapon1002/Shutterstock.com)
「100点取ってきたよ」に母親の反応は? ※画像はイメージ(画像提供:hanapon1002/Shutterstock.com)

プレスリリースは“自己中心的”な文書だけど

 新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐって、さまざまな情報が飛び交っています。接種自体は義務ではなく個人の判断に委ねられていますが、副作用などについては報道に振り回されてしまうこともあるでしょう。今回の“ワクチン報道”を通じて、自分が詳しくない分野の情報を受け取ったとき、人は過敏に反応してしまうものなのだと、情報を発信する側の広報として勉強になっています。

 特に重要な情報に関しては、報道だけで判断せずに情報の発信源(1次ソース)を探し出して、事実関係を確認する癖をつけておくべきです。ワクチンに関しては、厚生労働省のホームページにある「新型コロナワクチンについて」がとても参考になりましたので、一度アクセスしてみてください。ここでは英オックスフォード大学がまとめた「世界各国の新型コロナワクチンの接種人数や接種率」といったデータも確認できますから、日本の置かれている状況を把握するのにも役立つでしょう。

 とはいえ、1次ソースのURLを紹介するだけでは記事や番組にはなりません。1次ソースの情報を懇切丁寧に説明するのも手ですが、だらだら紹介しても読者や視聴者から「で、ポイントは何なんだよ!!」と文句を言われそうです。

 そこで膨大な情報の中からニュース性がありそうな「テーマ」を絞ることになります。これはプレスリリースでも同様です。ただプレスリリースも情報として完璧ではありません。端的に言えば、「うちの企業(製品)はこんなにすごいんだぜ」と伝えるための資料ですから、わざわざできないことや不利なことを書いたりはしません。マスコミの記者はプレスリリースがそういうものだと分かっているので、その分、情報を割り引いて受け取ります。業界全体における立ち位置を盛り込むこともありますが、それはその情報を入れたほうが自社のすごさが伝わりやすいからです。

 プレスリリースは「極めて自己中心的な文書だ」と思われるかもしれません。ただ補足すると、だからこそプレスリリースに入れ込む客観的事実を盛るようなことがあると、その後信じてもらえなくなってしまうのです。

 こうしたプレスリリースやそれを基に書かれる記事の裏側を知ると、何か情報を得た際に、情報の出所や取捨された情報の有無を確認する癖が抜けなくなります。

娘を褒めてあげたいけれど…

 あるとき、娘が「きょうテストで100点取ったよ」と報告してきました。良き母として「すごいわね~。頑張ったわね」と褒めればいいのですが、「みんな100点だったとかじゃないよね?」と確認してしまいました。取捨された情報があるのではと疑いをかけたのです。この場合「みんな100点なら褒めるほどでもない」という思考が働き、とっさにこんな反応をしてしまいました。

 またあるときは、「80点取ってきたよ。70点とか60点のお友達もいたよ。平均点は70点くらいだよ」と娘から報告されました。それに対して「自分より悪い点数を取った人のことだけ報告してない?」と疑いをかけ、さらに「平均点が70点くらいっていうのは怪しいなあ。それ、先生が仰っていた数字なの?」と確認してしまいました。改めて文字にしてみたら、ひどい母親ですね。素直に褒めてあげればよかったと、少し反省しております……。

 実は娘からもらったテストの点数情報は、彼女にとって都合が良すぎる情報だけを選択して発信されていました。これは良い情報を発信したい企業側の立ち位置に近いかもしれません。一方、娘に質問を投げかけた私の立ち位置は、マスコミの記者に近いといえるでしょう。この場合の広報は、不用意な情報発信をして、私のような疑問に満ちた質問をされないよう、客観的事実に基づいて事前に情報を確認し、その娘にアドバイスしてあげるような役割でしょうか(仲のいい友人や兄弟、あるいは家庭教師とか?)。

 以前、この連載でも書きましたが、広報とマスコミは立場が違います(関連記事:メディアは本当に意地悪? 都合の悪い記事に抱く勘違いの理由)。情報発信の目的も異なるので、情報を選択する視点が異なります。違った視点でまとめられているということを前提に情報を読み解く習慣をつけることで、専門外の情報も慌てずに受け取れるようになります。

 ワクチンの話に戻りますが、副作用に焦点を当てて語ることもできますが、副作用が起こらなかったほうに焦点を当てて文章を作り替えてみると随分と印象が違うので、ぜひ試してみてください。いずれにしても専門外の情報は受け取る側には不安の種となり、時として判断を鈍らせることを念頭に置いて発信しなければならないと、肝に銘じるきょうこのごろです。

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