音声SNSで話題の「Clubhouse(クラブハウス)」。そのroomで話された内容は基本的に口外しないのがルールです。広報的には「オフレコ」に当たります。とはいえ、一度口から出てしまった言葉は、文字のように後から直したりできません。記事化される危険性もはらんでいます。にもかかわらず、オフレコを宣言した途端、余計なことまで話してしまう人も……。
日本でのサービスがスタートし、大きな話題となっている音声SNS「Clubhouse」。他のSNSとは少し勝手が違うように感じます。こちらのアプリは、米国生まれのベータ版ということもあって、今のところすべてが英語表記。初めて参加する人が知っておくべきガイドラインが書かれている「Community Guidelines」を和訳した記事を幾つか見かけました。
日ごろ色々なSNSを使っている割に、私はあまりガイドラインを読み込んでいません。そこで真剣に目を通してみると、SNSに限らず情報を発信する企業が念頭に置くべき内容が記してありました。広報として基本に立ち返ることのできる良い教材だと感じたので、気になった条項を紹介しましょう。
嫌がらせはダメ、話を盛るな!
●You may not engage in abuse, bullying, or harassment of any person or groups of people.
これは「個人やグループの嫌がらせになるような行為をしてはいけない」ということです。「○○ハラスメント」系の行為は全部当てはまりますね。ニュースでもよく目にしますが、無意識の発言が誰かの嫌がらせにつながることがあります。ちなみに私が広報として仕事を始めた頃、先輩にタブーだと言われて今も気をつけているのは、「宗教」「政治」「性」「差別」「反社会」に関する話題です。これらについてもし何かしらの意見を持っていたとしても、よほどのことがない限り文字にもしないし、発言もしないよう肝に銘じています。
●You may not spread false information or spam, or artificially amplify or suppress information.
これは「虚偽の情報を拡散したり、情報を増幅や抑制したりしてはいけない」といった内容です。いつもファクト、ファクトと叫んでいるのですが、広報にとって最も大切な心構えですね。特に良かれと思っての情報の「盛り過ぎ」には要注意です。
Clubhouseを聴いていて感心するのは、メディアによく露出されている方は「出してOKな情報」と「NGな情報」の切り分けが上手な点。日常的に分類することに慣れているのでしょう。
とはいえ、音声はテキスト情報と違って一度出ていけば後で直せません。常にメディアの目にさらされている公人でさえ失言をすることからも分かるように、音声で情報発信するときはうっかりミスを犯しがち。取材でも同じことが言えますが、うっかりミスを回避するためには、「出してOKな情報」と「NGな情報」を事前に整理しておくのが大切です。
「オフレコ」という言葉がもたらす危険性
●You may not transcribe, record, or otherwise reproduce and/or share information obtained in Clubhouse without prior permission.
(Clubhouseで取得した情報を、事前の許可なしに書き写したり、録音、その他の方法で複製および/または共有したりすることはできません)
●You may not engage in any conversations or upload any content that violates any intellectual property or other proprietary rights.
(知的財産またはその他の所有権を侵害する会話を行ったり、コンテンツをアップロードしたりすることはできません)
上記のようにClubhouseが他の多くのSNSと異なるのは、roomで話された内容を基本的に口外してはならないというルールだと思います。広報的に言うと「オフレコ」ですね。roomで交わされた情報は、その時その時間、その場所を共有した人たちだけのヒミツ。そもそも話した内容の記録が残りませんから、事後にTwitterのリツイートやFacebookのシェア、YouTubeの共有などができない。ここが違います。
Clubhouseでも「Share」ボタンはありますが、これはあくまでroomがオープンしている間だけの機能で、部屋に招待するためのもの。roomの終了後に、その中で話されたコンテンツをShareすることはできません。私の経験からすると、オフレコと言えば言うほど解放感を得られ、必要以上に調子に乗って言わなくてもいいことまで話してしまうように思います。
こんな話があります。ある企業の経営者は広報同席の取材を受けた後、相手のライターからプライベートで会おうと言われました。経営者は広報に言う必要もないだろうと判断し、飲みの席で会社の秘密を話してしまいました。もちろん、そのライターは聞いた話を書くことにしました。ライターはしつこい広報からの連絡を絶ち、経営者だけに原稿確認を出しました(念のため進捗を確認したかったのでしょう)。
経営者は驚きました。原稿には未確定の内部情報が書かれていました。プライベートな飲みの席でオフレコだと言っていた話が、記事になるとは思ってもみなかったようです。その経営者から広報に原稿が回ってきたのは、校了のタイミングだったそうです。原稿を読んだ広報は震えが止まらないまま、ライターに文句を言われながら必死になって記事化を阻止したそうです。
恐ろしい話です。
オフレコは単にICレコーダーやスマホに録音しない(Off-record)という意味の場合もあります。しかし人の口に戸は立てられないですし、相手の記憶に残してしまえば、録音されたのと同じです。広報的にはオフレコで解放感を抱くなんてもっての外。「口から一度出てしまった言葉は、二度と飲み込めない」と心に刻みながら、今日も仕事に励んでいます。