マスコミから取材を受ける我が社の社長。うっかり口を滑らせたとしても、周りの人間は即座に「それは違いますよ」とは言えないものです。東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長辞任を表明した森喜朗氏の“女性蔑視発言”でのドタバタぶりを見ればよく分かります。しかし、広報なら勇気を振り絞ってでも「ダメ出し」をしなくてはなりません。

社長、その発言はNGです ※画像はイメージ(画像提供:OneSmallSquare/Shutterstock.com)
社長、その発言はNGです ※画像はイメージ(画像提供:OneSmallSquare/Shutterstock.com)

 一般にビジネスパーソンというものは、目上の人の発言には意見しにくいものです。社風にもよりますが、堂々と「社長それは違いまっせ」と言うのはなかなか勇気のいる行為ではないかと思います。

 しかし、広報という仕事は社長の発言にNGを出せる、いえ、出すべき立場にあります。会社の最高意思決定者である社長が取材中に言ったことを後で撤回でもしようものなら、会社そのものが信用を失うことになりかねません。そうならないための補佐役が広報なわけですから、言いにくいことも言わねばならないのです。

 ということで今回は経営者がマスコミ取材で気を付けるべき「NG発言」について考えてみたいと思います。

「これオフレコね」で起こる勘違い

 経営者の方にまず気を付けてもらいたいのは、取材中は軍隊でいえば「作戦行動中」、つまり相手もこちらも実弾を撃ち合うガチな時間帯であるということです。全ての発言は会社の公式見解として、訂正が利かないというリスクがあります。

 ここでよくある勘違いが「これはオフレコね」という発言です。確かにマスコミの方と広報の間で、時に「オフレコ」の話をすることがあります。しかしオフレコは記事を書いてもらうに当たって背景を相手に理解していただくためなど、何らかの理由があるときに初めて発動されるもので、「今の発言、待った!」ではないのです。

 また、経営者の口から出る言葉がオフレコでは、「この人調子のいいことを口にするけど、結局発言に責任を負えないのかな」という印象を与えてしまいます。自分の発言は全て引用されると覚悟した上で、踏み込んだ発言ができる経営者は良いスポークスパーソンとして記者からも人気が出るでしょう。

 別のNG発言としては、ぼかして話をしてしまうことです。当然ですが、経営者の頭の中は数カ月あるいは数年先の事業計画でいっぱいです。取材があまり盛り上がっていないと感じたときなどは、つい「詳しくは言えないけど、実はもっとすごいことを今考えていてね……」と言いたくなるかもしれません。ただ、これも「どの程度まで情報を開示するのか」「今後も同じ質問をされた場合、どう対応するのか」ということが十分整理できていないと、会社として思わぬ禍根を残すことにもなりかねません。

 ここに挙げた2例は、いずれも「発言してよいことと悪いことの線引きが曖昧」なのが原因です。もう1つ考えられるNG発言が、ステークホルダーの目を意識していない発言です。

「経営者は個人でない」ことを忘れずに

 実は取材を受けると分かるのですが、新聞記者などは思ったより若い人が多いのです。ベテランの経営者が20代の若手記者を目の前にすると、そのまっすぐな視線に吸い込まれるように、ついついいろいろしゃべってしまいたくなります。しかし経営者が意識すべきは、この取材が記事になったときの不特定多数の様々な視点です。

 分かりやすい例だと「これからはネット販売の時代だ」と言えば、流通小売り関連の取引先は「おたくの社長さんは、我が社との取引にもうご興味はないのかな」と気分を害してしまいます。さらによろしくないのは、その結果、営業の担当者が社長の発言について謝りに行くという、何ともばつの悪い仕事を部下にさせてしまうことです。

 実は経営者の発言を誰よりも気にしているのは、恐らく社員でしょう。これはもしかすると、取材を受ける上で一番意識しておかなければいけない点かもしれません。経営者として対外的にいい話をしたい、というのは理解できます。しかし日ごろ言っていることと全く違う発言は、社員に「どっちが本音なんだ……」と不安を抱かせます。さらに人間というものは、自分が直接聞いていないほうの発言こそが本音である、と思い込む傾向があるように思います。

 つまるところ「ありのままでいる」のが正解なのではないでしょうか。以前書いたマスコミに人気のある経営者の共通点としては、皆さん等身大のまま取材に応じられ、それでもなおかつ人間的な魅力を放っているということのように思います(関連記事「マスコミから引っ張りだこの経営者は、何をしゃべっているのか?」)。

 ただ、ありのままといっても、「経営者は個人でない」ことは意識しておく必要があります。どういうことかと言いますと、経営者も生身の人間である以上いつの日か会社を去ります。しかしマスコミにとってその経営者がした発言そのものには属人性はなく、次の経営者、その次の経営者へと引き継がれていくということです。特に「いい発言」ほどマスコミ側に強い印象として長く残るので注意が必要です。

 例えば「これからはテレワークが常識だ」という発言を以前の経営者がしていたとすると、経営者が交代してもマスコミからは「その後テレワークは進んでますか」と聞かれます。社員からも「いつになったらテレワークできるようになるんですか?」という、不満の声が上がってくるかもしれません。取材によっては座右の銘を聞くような個人的な質問もあるかと思いますが、個人の発言とはいえ、会社経営者の立場と矛盾したことを言わないようにしたいものです。

 こう書くと「そんなに面倒なら取材を受けたくない」と思われる経営者もいらっしゃるかもしません。そこで力になれるのが我々広報です。ただ、冒頭に書いたように、広報も1人のビジネスパーソンなので、社長にダメ出しをするのはなかなか勇気がいります。

 ちなみに私が仕事をしている現在の社長、デビット・ベネットは、取材が終わった後、向こうから必ず「ヘイ鈴木サン、ボク何か変なこと言わなかった?」とフィードバックを求めてきます。このように接してもらえると広報としてもやりやすくなりますし、結果的にスポークスパーソンとして、その経営者自身もクオリティーを上げることができるのではないかと思います。