「経営者は個人でない」ことを忘れずに

 実は取材を受けると分かるのですが、新聞記者などは思ったより若い人が多いのです。ベテランの経営者が20代の若手記者を目の前にすると、そのまっすぐな視線に吸い込まれるように、ついついいろいろしゃべってしまいたくなります。しかし経営者が意識すべきは、この取材が記事になったときの不特定多数の様々な視点です。

 分かりやすい例だと「これからはネット販売の時代だ」と言えば、流通小売り関連の取引先は「おたくの社長さんは、我が社との取引にもうご興味はないのかな」と気分を害してしまいます。さらによろしくないのは、その結果、営業の担当者が社長の発言について謝りに行くという、何ともばつの悪い仕事を部下にさせてしまうことです。

 実は経営者の発言を誰よりも気にしているのは、恐らく社員でしょう。これはもしかすると、取材を受ける上で一番意識しておかなければいけない点かもしれません。経営者として対外的にいい話をしたい、というのは理解できます。しかし日ごろ言っていることと全く違う発言は、社員に「どっちが本音なんだ……」と不安を抱かせます。さらに人間というものは、自分が直接聞いていないほうの発言こそが本音である、と思い込む傾向があるように思います。

 つまるところ「ありのままでいる」のが正解なのではないでしょうか。以前書いたマスコミに人気のある経営者の共通点としては、皆さん等身大のまま取材に応じられ、それでもなおかつ人間的な魅力を放っているということのように思います(関連記事「マスコミから引っ張りだこの経営者は、何をしゃべっているのか?」)。

 ただ、ありのままといっても、「経営者は個人でない」ことは意識しておく必要があります。どういうことかと言いますと、経営者も生身の人間である以上いつの日か会社を去ります。しかしマスコミにとってその経営者がした発言そのものには属人性はなく、次の経営者、その次の経営者へと引き継がれていくということです。特に「いい発言」ほどマスコミ側に強い印象として長く残るので注意が必要です。

 例えば「これからはテレワークが常識だ」という発言を以前の経営者がしていたとすると、経営者が交代してもマスコミからは「その後テレワークは進んでますか」と聞かれます。社員からも「いつになったらテレワークできるようになるんですか?」という、不満の声が上がってくるかもしれません。取材によっては座右の銘を聞くような個人的な質問もあるかと思いますが、個人の発言とはいえ、会社経営者の立場と矛盾したことを言わないようにしたいものです。

 こう書くと「そんなに面倒なら取材を受けたくない」と思われる経営者もいらっしゃるかもしません。そこで力になれるのが我々広報です。ただ、冒頭に書いたように、広報も1人のビジネスパーソンなので、社長にダメ出しをするのはなかなか勇気がいります。

 ちなみに私が仕事をしている現在の社長、デビット・ベネットは、取材が終わった後、向こうから必ず「ヘイ鈴木サン、ボク何か変なこと言わなかった?」とフィードバックを求めてきます。このように接してもらえると広報としてもやりやすくなりますし、結果的にスポークスパーソンとして、その経営者自身もクオリティーを上げることができるのではないかと思います。