外資系企業の広報といえば華々しく、“キラキラ”輝いている仕事のように思えるでしょう。確かにそうした一面もあるかもしれませんが、筆者の鈴木正義氏は「そうとは限らない」とくぎを刺します。実は外資系ならではの「3つの地獄」が存在するとか。なんとも大変というか、気の毒というか……。

ああ、本社から人がやって来るんだ。また地獄が…… ※画像はイメージ(画像提供:metamorworks/Shutterstock.com)
ああ、本社から人がやって来るんだ。また地獄が…… ※画像はイメージ(画像提供:metamorworks/Shutterstock.com)
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 NECパーソナルコンピュータはレノボとのジョイントベンチャーで、私自身レノボの広報という肩書も持っています。つまり「外資系の広報」ということです。

 「わー、外資の広報、すてきですねー」という声が聞こえてきそうです。以前にも書いたのですが、まず広報という仕事はイメージとは裏腹に地味で過酷な職場です(関連記事「『広報は華がある』は幻想 現実は泥くさく、気まずい」)。もう一つ声を大にして言いたいのは外資系企業といっても決して華やかな職場とは限りません。しかし最近では、自分のSNSのプロフィルに「元GAFA」と書く人がいるそうで(それはもはやプロフィルではないのでは……)、外資になぜかいいイメージを持つ人がいるようです。

 そんなキラキラの2乗ともいえる外資系広報に憧れる方も多いようなので、ちょっと実態を知ってもらいたく、今回はかなりニッチなネタかもしれませんが「外資系広報が経験する3つの地獄」を書いてみたいと思います。なお、これからお話する内容は私が過去に複数の外資系企業で経験したことを一般化したものです。どこの誰の話だろうと想像するのはやめてください。

【地獄第1フェーズ】取材をセットしなければならない

 地獄第1フェーズは「本社の偉い人が来るので取材をセットしなさい」と言われることです。「偉い人」=CEO(最高経営責任者)ならいいのです。ここでいう偉い人とは、例えば間接部門担当のVP(副社長)とか、複数ある事業部のうちの1つの、しかもあまり権限のない部長とか、そういう人です。しかも「トップメディアを呼ぶように」という条件付きです。当然全国紙やテレビのニュース番組からすると、その肩書であれば相当注目されている企業か、よほど面白いテーマでない限り取材する理由はありません。つまるところこの問題は、「あなたはあなたが思っているほど偉くないので、取材はできません」ということをストレートに本人に伝えなければならないということです。

 You are not as great as you wish.

 お役に立てていただければと例文を用意しましたが、書いてみると改めて絶対言っちゃいけない一言であることが分かります。結局それは伝えられるはずもなく、無理くり取材を入れることになります。何とか拝み倒して取材を設定できたとしても、地獄はこれで終わりではありません。次なる地獄「取材現場」が待ち受けているのです。

【地獄第2フェーズ】取材当日振り回される

 続いて地獄第2フェーズは、取材当日に振り回されることです。せっかくの海外の幹部取材、何か「初出し」のコメントでも取れないかとあれこれ角度を変えて質問してくる記者の方も多いのですが、海外のスポークスパーソンは非常にガードが堅く、当初予定したシナリオから発言は1ミリもはみ出しません。どういうことかといいますと「それ、ホームページに書いてありましたよね……」と取材する側が言いたくなるような回答ばかりなのです。

 かみ合わない問答にいらだつ記者、いらだつスポークスパーソン。このいらだちの矛先はどこに向くのでしょう。そうです日本の広報です。

 「鈴木さん、このままじゃ記事になりませんよ……」

 「ヘイ、鈴木サン。彼ハナゼ同ジ質問バカリ繰リ返スノカ?」

 これを回避するには、“取材する側”とかなり入念に打ち合わせておくしかありません。ここまでしか言えませんよ、それならこういうアングルの記事で使えますね、という感じです。取材が設定できたと安心していると、取材した後から「ボツ」も最悪あり得ますから、広報としてはちゃんと記事を出してもらうために事前のレクチャーをしておくか、ボツになったときのために逃げ足を鍛えておくかのどちらかを準備しておくべきです。

 そんなこんなで予定した取材を冷や汗をかきながらもこなし、残る取材もあと2件。このあたりで最後のワガママが発動されます。さっきから、ちらちらスマホの画面を見ているなぁと思うと、こう言ってきます。

 「ヘイ、鈴木サン。チョット疲レタノデ、コノ後ノ取材ハキャンセルデキナイカ?」

 えっ……。

 彼のスマホの画面をのぞくと、そこには銀座のショッピングガイドが表示されていたりもするのですが、こんな小芝居に付き合ってあげることも外資系広報がサラリーマンとして生きていくための重要スキルの1つです。

 ただ、散々お願いして取材をセットしてもらったこちらの立場からすると、さすがにキャンセルはできません。板挟みになりながらもマスコミのことを第一に考えられるか、サラリーマンとして生きるのか。広報の人間性テストともいえる地獄を味わうことになります。

 死に物狂いで取材をセットし、散々ワガママに振り回された取材も終わり、スポークスパーソンも本国に帰っていきました。しかし、ここから第3の地獄、本社へのリポートが待っているのです。

【地獄第3フェーズ】本社リポートは日本広報の生命線

 さて、何とか記事も無事掲載され、リポートを提出してヤレヤレ、と思っていると、

「日本の広報は何をやっているんだ?」

という本社広報からのメール。さらに「他の国のリポートを見てみろ!」と言われたことがあります。

 早い話が、日本のリポートがひどくつまらないものに見えてしまったのです。日本の記事はあくまでファクトを伝えることに徹しているのに対し、海外の記事はいいものは徹底的にほめちぎるので、比較されると日本のプレスはわが社を全然評価していない、と映ってしまうのです(関連記事「外資系ならではの悲哀 『KPI未達』の引き金となる日本の記事」)。

 また英語圏の場合、リポートを見ずとも記事そのものを目にするので、おおよそ間違った評価になることはありません(悪い記事もそのまま読まれてしまいますが)。しかし日本語の記事は、我々日本法人のリポート以外で目に入ることはなく、いわばこのリポートが日本法人広報の生命線なのです。

 せっかくよい仕事をしていても、リポートのちょっとしたすれ違いで一旦誤解が生じてしまうと、言語も違い時差もある地域の人に対し軌道修正をするには、膨大な工数が必要になります。場合によっては本来の広報活動をする時間を削ることにもなります。そのムダを考えると、普段からまめなコミュニケーションを取っておくほうが結果的に楽できるのです。

 キラキラの2乗と見られる外資系広報、こんな感じで今日も夕日を眺めております。